Notes / AI & DX

AIが最初に入った部署は、
営業ではなく“総務”だった

2026.08.12

カフェで先月のカード明細を1枚ずつ照合していた、火曜の朝

8月の第1週、開店直後のカフェで、うちの会社の先月のクレジットカード明細を広げていた。ツール代、交通費、外注費——1行ずつ会計ソフトの記録と突き合わせていく、あの地味な作業だ。コーヒーが冷める頃、ふと手が止まった。今、自分がやっているこの照合こそ、いちばん最初にAIへ渡した仕事だったと思い出したからだ。

SUICSを回すなかで、最初にAIに任せたのは新規のお客さんを増やす華やかな仕事ではなかった。カード明細の分類、請求書の作成、問い合わせメールの下書き——名前もつかない裏方の作業から入った。派手さはないが、毎月確実に自分の時間を削っていたのはそこだったからだ。その順番は、感覚で選んだつもりでいた。

ところが先日、中小機構が2026年3月に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」を読んで、背中がすっとした。AIを導入した企業のうち、総務・管理部門の導入率が68.3%と、すべての部門で最も高かったのだ。営業でもマーケでもなく、いちばん裏方の総務からAIが入っている。自分が感覚でやったことに、公式データの裏付けがついた瞬間だった。

今日は、この「AIは総務・バックオフィスから入る」という事実を、机の上の判断に落とし込む話を書く。なぜ営業ではなく総務が正解なのか。そして、その総務・バックオフィスの中で、最初にAIへ渡すべき3つの現場はどこか。佐賀のひとり会社で実際に回してきた立場から、順番に置いていく。

なぜ「花形の営業」ではなく「裏方の総務」からなのか

AIと聞くと、多くの人は「売上を伸ばす武器」を想像する。だから最初に営業やマーケに入れたくなる。ところが実データは逆を指していた。総務・管理部門の68.3%を筆頭に、営業、マーケ、サービスと続く。売上に近い部門ほど、AIの導入は後回しになっている。この順番には、ちゃんと理由がある。

ひとつは、裏方の仕事ほど「毎回やることが決まっている」からだ。同じ調査では、企業がAIに最初に任せた業務のトップが「書類処理・データ入力」で38%を占めた。総務の仕事は、相手の気持ちを読んで方針を変える交渉ごとより、決まった手順をなぞる作業が多い。手順が決まっている作業ほど、AIは任せた初日から成果を出す。だから総務が入口になる。

もうひとつは、失敗しても売上に穴が空かないという安心感だ。営業のトークをAIに任せて外すと、その場で商談が飛ぶ。だが経費の分類をAIに任せて間違えても、後で直せば済む。試すコストが低い場所から始めるのは、合理的な判断だ。導入企業の82.6%が生成AIを使っていたという事実も、こうした「低リスクの定型作業」から広がったと読める。

これは個人事業主やひとり社長にも、そっくり当てはまる。あなたの会社に総務部という看板はなくても、総務の仕事は必ず存在する。請求書を作る、経費を分ける、問い合わせに返す——その「一人総務部」の作業こそ、AIを入れる最初の入口だ。売上を伸ばす前に、まず売上に直結しない裏方を軽くする。空いた時間を、そのまま攻めの仕事に振り替えられる。

AIが最初に入った部署は、総務・管理68.3%。
最初に任せた仕事は、書類処理・データ入力38%。
華やかな営業ではなく、裏方から入るのが正解だった。

総務・バックオフィスの中で、最初に渡す3つの現場

「総務から」と言われても、総務の仕事は幅が広い。そこで、実データで成果が出やすいと分かっている順に、最初に渡す3つの現場を具体的に置いていく。上から順に手をつければ、迷わない。

Field 01
書類作成・データ入力|まず「転記と清書」を手放す
見分け方:元の情報はあるのに、形を整え直すだけで時間が溶ける作業
調査で最初の用途トップだった38%の領域が、ここだ。見積書や請求書の作成、Excelへの転記、議事録の清書、定型メールの下書き——素材はもう手元にあって、あとは決まった形に整えるだけの作業。頭を使う判断がほとんど挟まらないから、AIに渡すと一発で成果が出る。ひとり社長なら、まず「毎月必ず作る同じ書類」を1種類選んで、テンプレと一緒にAIへ渡すところから始めるといい。ゼロから考えさせるのではなく、去年の同じ書類を見本として添えるのがコツだ。
向く
請求書・議事録・転記
効果
清書時間がほぼゼロ
コツ
去年の書類を見本に
Check
「これ、内容は決まっていて、あとは打ち込むだけだな」と思える書類。そこが最初の練習台に一番向いている。
Field 02
経理・お金まわりの照合|「合っているか確かめる」を任せる
見分け方:2つの記録を突き合わせて、ズレを探すだけの作業
カード明細と会計ソフト、通帳と売上台帳——2つのデータを並べて「ここが合わない」を見つける照合作業は、集中力を食うわりに何も生まない。だがAIが得意なのは、まさにこの「大量の項目を突き合わせて例外だけ拾う」仕事だ。全部の判断を任せる必要はない。AIに一次チェックをさせて、赤信号がついた数行だけ自分が見る。この分担にすると、目視で全行を追っていた時間が、確認だけの数分に縮む。経理AIエージェントがフォーマット不問でデータを読む時代になった今、ここは個人事業主でも入りやすくなっている。
向く
明細照合・仕分け
分担
AI一次→人が最終
効果
全行目視が不要に
Check
「見つけたいのはズレだけ」という作業。全部を読む必要はなく、例外だけ拾えばいいなら、AIの一次チェックが効く。
問い合わせの一次対応|「返信の下書き」まで作らせる
見分け方:聞かれることがだいたい決まっている、社内外の問い合わせ
営業時間、料金の目安、予約の可否、支払い方法——問い合わせの多くは、実は同じ質問のくり返しだ。ここでAIに任せるのは「送信」ではなく「下書き」までにするのが、失敗しない境目になる。よくある質問と過去の返信例をAIに覚えさせておき、新しい問い合わせが来たら返信文の下書きを用意させる。人はそれを読んで、送るか直すかを決めるだけ。ゼロから文章を考える負担が消えて、返信のスピードだけが上がる。Instagram経由の問い合わせが多い店舗なら、この一次対応の考え方は自動DMの設計とそのままつながる。
向く
定番質問への返信
境目
下書きまで・送信は人
効果
返信の初速が上がる
Check
「またこの質問か」と思う問い合わせほど、下書き化の価値が高い。定番の答えを毎回ゼロから書く時間が消える。
Where AI enters first
AIは“総務・バックオフィス”から入り、他部署へ広がる
入口 / 総務・管理部門 導入率 68.3%(全部門で最多) Field 01 書類作成・入力 最初の用途38% Field 02 経理・照合 AI一次→人が最終 Field 03 問い合わせ一次対応 下書きまで任せる 裏方で回った手順が、社内の“型”になる 手順が言葉になり、渡せる形にそろう 次は営業・マーケへ広げる 売上に近い部門は、型ができてから触る SOURCE: 中小機構 2026年3月 実態調査

総務から入ると、なぜ会社全体が軽くなるのか

3つの現場を順に手放すと、時間が空くだけではない別の効果が生まれる。総務・バックオフィスの作業をAIに渡すには、頭の中にあった手順をいったん言葉にして書き出す必要がある。「この書類はこう作る」「この照合はここを見る」——それを外に出す作業が、実は会社の“型”づくりそのものになる。

この型ができると、次の一手が軽くなる。裏方で一度「手順を書き出す→AIに渡す→回す」を経験しておくと、同じやり方を営業やマーケにも応用できる。だから調査の順番——総務が先で、売上に近い部門が後——には意味がある。いきなり花形から触ると、判断の多さに足を取られて型ができない。裏方で型を作ってから攻めに広げるのが、転ばない順路だ。

SUICSがAI導入の相談で最初にやるのも、この順番の整理だ。まず会社の作業を棚卸しして、総務・バックオフィスの中から「手順が決まっていて、時間を食っている作業」を切り出す。補助金の申請代行はやらないし、いきなり大きなシステムも作らない。必要な作業を一つずつAIに渡し、その過程で手順を言葉にしていく。売上を伸ばす仕組みは、その土台が固まってから乗せる。順番を守ることが、いちばん確実な近道になる。

「最初に渡す1業務」をどの3条件で選ぶかは 「AI導入率20.4%|最初の1業務の選び方3条件」 に、経理まわりを最初に任せる具体的な進め方は 「経理AIエージェントは“デジタル労働力”|最初に任せる1業務の3条件」 にまとめてある。あわせて読むと、部署で決める→業務で絞る→実際に渡す、の流れがつながる。

「うちの総務、どこから渡せばいいか一緒に見てほしい」と思ったら

部署で見れば入口は総務・バックオフィスだと分かっても、自分の会社のどの作業から手をつけるかは、案外決めにくい。毎日やっている作業ほど「これは自分がやるものだ」と体が覚えていて、外から見ないと候補に上がってこないからだ。

SUICSのAI/DX診断では、この「一人総務部」の作業を一緒に並べるところから入る。書類作成・経理照合・問い合わせ対応のうち、どこが一番時間を食っているかを見える化して、最初に渡す現場を1つ決める。そのうえで、その作業に合う道具を1本だけ選び、手順を言葉にしながら実際に動く状態まで伴走する。大きなシステムを一気に作るのではなく、裏方から一つずつ軽くしていく。総務68.3%というデータが示した順路を、そのまま御社の現場で再現するイメージだ。

SUICS Service — AI / DX 導入支援
AIの入口は“総務・バックオフィス”。裏方から一つずつ軽くする。
解決できる悩み:「AIをどの部署・どの作業から入れればいいか分からない」「営業に入れる前に、まず裏方を軽くしたい」「請求書や議事録づくりに毎月時間を取られている」「カード明細や売上の照合を目視で全部追っている」「同じ問い合わせに毎回ゼロから返信を書いている」「大きなシステムはいらない、必要な作業だけ自動化したい」「補助金ありきではなく、業務の構造から見直したい」。業務棚卸し→総務・バックオフィスの現場を特定→最初に渡す1作業を決定→道具1本の選定→実装・定着まで、非エンジニアの内製を伴走します。
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華やかさの手前にある、最初の一歩

カフェで冷めたコーヒーの横で気づいたのは、AIの効果は華やかな場所からではなく、名前もつかない裏方からやってくる、という順番だった。総務・管理68.3%という数字は、それを日本中の会社の実データとして裏づけていた。

もし今、AIをどこから入れるか迷っているなら、売上を伸ばす武器を探す前に、手元の「一人総務部」を見てほしい。毎月必ず作る書類、毎月やる照合、毎回くり返す問い合わせ返信。そのどれか一つを、テンプレと一緒にAIへ渡してみる。それだけで、あなたの会社は総務68.3%の側に回れる。攻めの一手は、裏方が軽くなってからで間に合う。まずは机の上の、いちばん地味な作業から。

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