火曜の朝、同じ売り文句の営業メールが2通並んでいた
今週の火曜、朝いちばんでメールを開いたら、まったく別の会社から届いた営業メールが2通、並んでいました。件名はほぼ同じで「AI検索対策、御社はもう始めていますか?」というもの。片方は「LLMO対策パッケージ」、もう片方は「AIO診断+最適化プラン」。どちらも、月に数万円払い続ける契約を勧めてくる内容でした。
「LLMOって何?」「AIOって何?」と思った方、それが普通の反応です。ざっくり言うと、どちらも「AI(ChatGPTやGoogleのAI検索)に、自分のお店やサービスを見つけて紹介してもらいやすくする工夫」を指す言葉。昔からある「SEO」(検索結果で上位に出るための工夫)のAI版くらいに考えてもらえれば大丈夫です。
読みながら、正直「あれ?」と引っかかりました。この2通が勧めてきた「新しい技術対策」の多くは、実はGoogleが2026年5月15日に自分で出した公式ガイドの中で、はっきり「やらなくていい」と書かれているものだったからです。自分のHPを使ってAI検索の動きを試してきた身からすると、この売り方は「これ前にも見たな」という既視感がありました。数年前、電話でMEO対策(Googleマップの上に自分の店を表示させる対策)を売り込む営業が増えた時期があったんですが、あれとそっくりの構図です。
ただし、営業メールが引用していた数字そのものは本物です。2026年に行われたAI検索の調査では、AIが「おすすめ」として名前を挙げる地域のお店は、全体のたった1.2%しかない、という結果が出ています。残りの98.8%は、順位が低いんじゃなくて、そもそもAIの答えの中に一度も出てこないんです。この数字の怖さと、Google公式の「特別な対策はいらない」という発言。一見矛盾して見えるこの2つを、今日はちゃんと整理してお伝えします。
98.8%は「順位が下がる」んじゃなくて「そもそも土俵に上がれていない」
まず、数字の意味を正確に押さえておきたいところです。今までの検索エンジンだと、対策が弱いお店でも10位や30位あたりには表示されていました。スクロールすれば、いちおう見つかる場所にはいたわけです。
ところがAI検索は仕組みがまったく違います。ユーザーが「近くのいいカフェ教えて」とAIに聞くと、AIは自分の言葉で数店だけを名指しして答えます。この「名前を挙げてもらえた数店」だけが、ユーザーにとって"存在するお店"になる。10位も30位も関係なくて、挙げてもらえなければ、そのお店は最初から無かったことになるんです。さっきの1.2%というのは、この「名前を挙げてもらえた側」に入れたお店の割合、ということです。
もうひとつ、行動が変わってきているというデータもあります。Google検索をすると、結果のいちばん上に「AI Overviews」というAIが書いた回答が表示されることがあります(検索した言葉に対して、AIがまとめて答えてくれる欄のことです)。これが表示されたとき、検索結果で1位に入っているサイトでも、クリックされる率が日本では約38%も下がる、という調査結果が出ています。つまり、1位を取っても、AIの回答だけで用事が済んでしまえば、クリックしてもらえない時代になってきているということです。「検索順位を上げること」だけをゴールにしていると、来店にも問い合わせにもつながりにくくなっている、というのが今の実情です。
つまり、営業メールが言っていた「何もしないとまずいですよ」という危機感自体は、方向としては間違っていません。問題は、その不安につけこんで売られている「解決策」の中身のほうなんです。
Google公式が「いらない」と言い切った3つ、これはやめていい
Googleが2026年5月15日に出した、AI検索向けの公式ガイド。中身を一言でまとめると「AIのために特別なことをする必要はない。人間の読者にちゃんと伝わるように、はっきり書きなさい」という内容です。この中で、ほぼ名指しに近い形で「やらなくていい」と言われている施策が3つあります。もし今、目の前にある提案書にこれが載っていたら、契約印を押す前に一度立ち止まってほしいです。
特殊な技術じゃなくて、
「AIが安心して紹介できる基本情報」があるかどうか。それだけ。
1.2%側のお店がやっているのは、地味な基本整備だけ
じゃあ、AIに名前を挙げてもらえる1.2%側は、いったい何が違うのか。答えは拍子抜けするくらい地味で、営業時間・料金・強み・実績といった基本情報が、ホームページの上に、矛盾なく整理されて書かれている。これに尽きます。
なぜかというと、AIは「間違った情報を紹介してしまうこと」を何より怖がっているからです。紹介した内容が間違っていたら、AI自身の信用が落ちてしまう。だから、情報がバラバラなお店より、確認しやすくてはっきりしているお店を選んで紹介するんです。人間だって、頼りになる友達に「あの店どう?」って聞かれたら、自分がちゃんと知ってる店を勧めますよね。AIがやっていることも、仕組みとしてはそれに近いです。
具体的に何をそろえればいいかは、以前書いた 「あなたの店は“AIに引用されない店”かもしれない」 という記事で、基本情報を1字1句そろえること・質問と答えのセットで書くこと・自分の店にしかない実例を書くこと、という3つに整理しました。今回のGoogleの公式ガイドは、この考え方が間違っていなかったことの答え合わせになった格好です。特別なファイルも、特別な文体もいりません。必要なのは、人が読んでもAIが読んでも、同じ内容が同じように伝わる、矛盾のないホームページです。
それと、AIに見つけてもらったあとの導線も忘れちゃいけません。AIとのチャットのやり取りの中でそのまま買ってもらうより、いったん自分のサイトに来てもらって、そこで決めてもらうほうが実は成約しやすい、というWalmartの検証結果は、以前 「AIの中で買わせると成約は3分の1」 という記事に書きました。AIに紹介してもらうための整備と、来てもらったあとの受け皿づくり。この2つはセットで考える必要があります。
もし今、目の前に「AI検索対策」の提案書が置いてあるなら、聞いてほしい質問は3つだけです。「その対策は、Googleの公式ガイドのどこに書いてありますか?」「効果は、何の数字で確認できますか?」「その作業は、うちのホームページの基本情報を整えることと、何が違うんですか?」。この3つにちゃんと答えられない提案に、毎月の予算を割く必要はありません。浮いたお金は、料金ページを書き直したり実例のページを増やしたりといった、確実に手元に残る整備に回したほうが、よっぽど早く結果につながります。
「新しい脅威」の顔をした、古い営業に振り回されない
振り返ってみると、同じような構図は何度も繰り返されてきました。MEO対策の電話営業、SEO業者の被リンク(他のサイトからリンクを増やす施策)パッケージ、SNS運用代行のフォロワー数保証。新しい技術が広まるタイミングでは、いつも「これをやらないと乗り遅れますよ」という不安を煽る売り込みが増えます。今回はそれが「AI検索」という顔をしてやってきただけ、というのが正直な感想です。
今回、以前と違うのは、Googleが早い段階で「特別な対策はいらない。人間の読者に向けてはっきり書きなさい」という公式見解を出してくれたことです。この一行を知っているだけで、営業メールへの返事はだいぶ変わってくるはずです。1.2%という数字にあせって契約書に判を押す前に、まずは自分のホームページを開いて、営業時間と料金が今日の時点で正しく書かれているか、それだけ確認してみてください。AI検索時代の第一歩は、実はそのくらい地味なところから始まります。
火曜の朝に届いた営業メール2通には、結局返信しませんでした。代わりにこの記事を書きました。同じようなメールを受け取った誰かが、払わなくていいお金を払わずに済むなら、それが一番いいなと思っています。