隣の席の学生のInstagramは、開いた瞬間リールだった
土曜の夕方、福岡からの帰りの特急でのことだ。通路を挟んだ隣の席の学生がスマホを取り出して、Instagramを開いた。のぞき見したわけではない。イヤホンを挿し損ねていたらしく、開いた瞬間にリールの音声が車内に漏れて、本人があわてて音量を下げた。その一瞬で分かったことがある。彼のInstagramは、開くとリールから始まる。
自分のスマホで開き直すと、いつも通りフォロー中のフィードが出る。同じアプリなのに、最初に出る画面が人によって違う。帰宅してから検証用に使っている複数のアカウントを順に開いてみると、1つだけ下部バーの並びが違うものがあり、DMの吹き出しアイコンが目立つ位置に置かれていた。
偶然ではなかった。調べてみると、Instagramはいま、アプリの顔そのものを組み替える大がかりなテストの最中だった。そしてこの変更は、フィードに写真を並べて集客してきた店舗にとって、入口の場所が変わることを意味している。
「どの画面を優先するか、自分で選んでいい」史上初のナビ個人化テスト
海外のSNS専門メディアが2026年8月に報じた内容を整理すると、こうなる。Instagramは一部のユーザーに対して、Reels・DM・プロフィールのどれを優先表示するかを自分で選ばせるプロンプトを表示するテストを始めた。ユーザーがアプリの核となるナビゲーションを自分でカスタマイズできるのは、Instagramの歴史で初めてのことだ。
伏線は前からあった。下部のナビゲーションバーは2026年3月に「ホーム・Reels・DM・検索・プロフィール」の並びへ再設計済みで、リールとDMはすでに一等地に置かれている。さらに、アプリを開いた瞬間にフィードではなくリールを最初に表示するデフォルト変更もテストされている。特急で隣の学生のスマホから流れたのは、おそらくこのテスト版だ。
方向性は責任者自身が言葉にしている。Instagramのトップであるアダム・モセリ氏は「ここ数年のInstagramの成長は、ほぼすべてReelsとDMが牽引した」と明言した。成長を支えている2つの機能を正面に出す。企業の判断として、これほど分かりやすい話はない。
店舗側から見ると、この変更は2つの事実に置き換えられる。1つ、フォロワーのアプリ体験は「フィード中心」から「リール+DM中心」へ構造的に移り、フィード投稿の露出は今後さらに相対的に下がる。2つ、DMタブが常時正面に出ることで、お客さんにとってDMを開く動作が「わざわざ」から「ついで」に変わる。つまり、店の入口が移動する。
アプリの画面だけではない。
あなたの店の入口も、並び替わる。
店の入口をDMへ移す、3つの組み替え
ManyChatの構築で125社のInstagramを見てきたが、UI変更のたびに感じることがある。アプリの構造が変わっても、店側の投稿習慣は前の構造のまま残るということだ。フィードが正面玄関だった時代の習慣で、リール+DMが正面の時代を戦うと、入口のない店になる。組み替えるべき場所は3つある。
リールの評価軸がすでに「DMで送られた数」へ動いている件は 「Instagramリールは『DMで送られた数』がいいねの3〜5倍」 記事に書いた。今回のUI変更はその流れの続きで、リールとDMを往復する動きがアプリの標準になる。フィード投稿をやめる必要はないが、役割は「新規に見つかる場所」から「常連が近況を見る場所」へ変わる。
組み替え先は、投稿とリールに置く「合言葉」だ。「『予約』とコメントすると、空き状況をDMでお送りします」のように、コメント1つでDMが始まる入口を投稿ごとに用意する。お客さんにとっては、正面に出てきたDMタブに店からの返事が届く形になり、アプリの構造と導線の向きが一致する。
ここは人力で頑張る場所ではない。最初の1通——メニュー表、空き状況の案内、よくある質問への答え——は自動で即時に返し、日程の相談や個別の質問から人が引き継ぐ。コメントの合言葉から自動DM、そして予約やリスト化までを1本につなぐのがManyChatの役割で、SUICSが125社で組んできたのはまさにこの受付の部分だ。
今日20分でやる、入口の点検3手順
ナビ個人化はまだテスト段階で、すべてのアカウントに届いているわけではない。それでも今日点検しておく価値があるのは、下部バーの再設計はすでに全員に適用済みで、DMが一等地にある状態は現時点で確定しているからだ。手順は3つ、20分で終わる。
1. 自分のスマホとお客さんのスマホで、下部バーの並びを見比べる。家族や常連さんに頼んで、Instagramの下部バーを見せてもらう。並びが自分と違う人が1人でもいたら、テストが自分の商圏に届き始めている証拠だ。自分の画面だけを見て「まだ変わっていない」と判断しないことが大事になる。
2. 直近10投稿の「DMへの入口」を数える。投稿とリールを10本さかのぼり、キャプションか画面内に「コメントで合言葉→DMで案内」の導線が入っている本数を数える。125社を見てきた経験では、この数字がゼロの店が半分を超える。ゼロなら、入口のない店にお客さんが並び始めている状態だ。
3. 合言葉と1通目を1組だけ作る。いきなり全投稿に仕込む必要はない。一番問い合わせにつながりやすいメニューを1つ選び、合言葉1つと、それに返す1通目の文面を1組だけ用意する。1通目には、案内・空き状況・次の質問への誘いの3要素を入れる。この1組が回り始めれば、2組目からは複製で済む。
入口の移動は、小さな店ほど追い風になる
フィード中心の時代は、きれいな写真を量産できる店が強かった。撮影に予算をかけられる大きな店ほど有利な構造だ。リール+DM中心の構造は違う。リールは素の空気感が評価され、DMは会話の質で選ばれる。どちらも、現場に立っている小さな店の方が本来強い領域だ。
リーチが下がり続ける中で「届いた人を資産化する」方向へ舵を切る話は 「Instagramリーチ18%減時代」 記事に書いたが、DMタブの前面化はこの戦略の追い風になる。DMで始まった会話は、フォロワー数と違って、アルゴリズムの変更で消えない。入口をDMに移すことは、集客をアルゴリズムから自分の手元へ引き取ることでもある。
逆に言えば、この構造変化を知らずにフィードだけ更新し続ける店との差は、これから静かに開いていく。アプリの正面玄関が変わったことに、お客さんは気づいても、店は気づきにくい。自分の画面には、昔の並びが表示され続けるからだ。
玄関が変わる日は、予告なく来る
Instagramの大きなUI変更は、いつも同じ順序で進んできた。一部でテストされ、気づいた人だけが騒ぎ、ある日全員に適用される。ストーリーズも、リールタブも、そうやって正面に来た。今回のナビ個人化とリール起点のテストも、同じ道をたどる可能性が高い。
適用された日に慌てて動線を作り直す店と、テスト段階で入口を移し終えている店。どちらのDMにお客さんが並ぶかは、書くまでもない。幸い、今日やるべきことは大がかりな話ではない。下部バーを見比べ、直近10投稿の入口を数え、合言葉を1組作る。20分の点検が、玄関が変わる日の備えになる。
特急で隣に座っていた学生は、リールを2本ほど眺めたあと、DMの画面に切り替えて誰かと長いやり取りを始めた。フィードには、最後まで一度も戻らなかった。あの数分間の画面遷移が、たぶん2026年のInstagramのすべてだ。店の入口は、もうあの画面の中にある。