カード明細の「Meta Platforms」の行と、返事のないコメント23件
月初の朝、8月分のクレジットカード明細を確認していた。並んでいる行の中に「META PLATFORMS」の請求がある。自分の分ではなく、広告運用を一緒に見ているエステサロンの分だ。金額そのものは想定どおりだった。気になったのは、その広告投稿のコメント欄のほうだ。8月中に「詳細希望」「気になります」「予約できますか」とコメントしてくれた人が23人いて、そのうちオーナーが返信できていたのは、日付を追うと最初の6人までだった。
残りの17人は、広告費を払って呼び込んだ人だ。しかも「気になる」と自分から声を上げてくれた人だ。それが、コメント欄に並んだまま2週間以上放置されていた。オーナーが怠けていたわけではない。施術中はスマホを触れないし、閉店後にコメント欄を開く頃には、どれが広告のコメントで、どれが友人の「いいね」代わりのコメントか、見分けるだけで疲れてしまう。この構造は、ManyChat構築で関わってきた125社のうち、広告を回している店ではほぼ例外なく起きていた。
そして今、この「広告のコメントを取りこぼす」問題に、Meta自身が手を打ち始めた。2026年8月下旬から、一部の広告主のInstagram広告作成画面に「Reply to Keywords(キーワードに返信)」という新しい設定枠が出現している。広告投稿に特定のキーワードでコメントした人へ、自動でDMを送る純正機能だ。今日はこの機能で何ができて、何ができないのか、そして広告費を無駄にしないための「1通目は純正・2通目からManyChat」という3つの設計を書いていく。
「Reply to Keywords」とは何か——コメント→自動DMが広告側に純正で入った
まず事実を整理する。海外の広告運用者による報告と業界メディアの記事によれば、Meta広告の広告作成画面に「Reply to Keywords」という項目がテスト表示されるようになった。設定できるキーワードは最大5つ。広告投稿にそのキーワードを含むコメントがついたら、コメントした人へ自動でDMが送られる。DMの本文にはリンク、電話番号、メールアドレスを含められる。つまり「『予約』とコメントしたら、予約ページのリンクがDMで届く」という動線を、広告マネージャの中だけで完結して組めるようになった。
注意点も先に書く。現時点で対応しているのはInstagram配置のみで、Facebookのフィードに出した広告には効かない。まだテスト段階で、すべての広告主に表示されているわけではなく、全体展開の時期も公表されていない。自分のアカウントで広告作成画面を開いても、その枠が出ていなければ、まだ対象になっていないだけだ。仕様が変わる可能性もある。
ここで思い出してほしいのが、2026年7月に書いた 「Instagramに純正『自動化』機能が登場」 の記事だ。あのときはオーガニック投稿(広告ではない通常の投稿)の側に、コメント→DMの純正機能が入った。今回はその広告版にあたる。「コメントしたらDMが届く」という、これまでManyChatのような外部ツールの専売特許だった動線を、Metaが本体側に取り込みにきている流れは、もう一時的なものではないと考えていい。
純正で足りる範囲、足りない範囲——「1通送って終わり」の意味
ここまで読むと、「じゃあManyChatはもう要らないのでは」という話になる。125社の構築でこの問いには何度も向き合ってきたので、結論を先に書く。純正の「Reply to Keywords」は入口としては十分で、会話としては不十分だ。
純正でできるのは、キーワードに反応して1通のDMを送るところまでだ。相手が「はい」と返してきても、その先に分岐する2通目はない。相手がフォロワーかどうかを判定して出し分けることも、コメントした人に「広告経由」のタグを付けてあとから一斉に連絡することも、3日後に「その後いかがですか」と自動で追いかけることもできない。冒頭のエステサロンで言えば、「詳細希望」に対して予約リンクを1通返せるようにはなる。でも、その人が「土曜の午後は空いてますか」と返信してきたら、そこから先はまたオーナーのスマホに戻ってくる。
逆に言えば、「1通返せれば済む広告」なら純正で足りる。メニュー表のPDFを渡すだけ、キャンペーンページのリンクを渡すだけ、電話番号を伝えるだけ。こうした広告は、月額ツールを契約せず、少額の広告費とこの設定だけで回せる時代に入った。問題は、広告費を払って呼び込んだ人の大半は「1通で済まない人」だということだ。気になる、けど不安がある、だから聞きたい——その人にこそ広告費は使われている。だから、入口は純正に任せて、2通目からをManyChatで受けるという二段構えが現実解になる。設計は3つある。
広告費を取りこぼさない、「1通目は純正・2通目からManyChat」の3設計
純正機能とManyChatを対立させるのではなく、役割を分けて重ねる。125社の構築で確かめてきた考え方を、広告版の純正機能に合わせて組み直したのが次の3つだ。
純正の1通で終わらせない。
2通目からが、回収の始まりだ。
今日からやること——純正が来る前の仕込み3手順
自分のアカウントに「Reply to Keywords」がまだ表示されていなくても、やることは変わらない。まず、直近3か月の広告投稿のコメント欄を開いて、「返信できていないコメント」を数えてみてほしい。冒頭の17件のように、広告費を払って呼んだのに放置されている人が何人いるか。この数が、そのまま今の広告の取りこぼしだ。
次に、広告のキーワードを1つ決める。「予約」でも「詳細」でも「クーポン」でもいい。決めたら、広告文の最後に「『予約』とコメントで空き状況をお送りします」と一文を足し、ManyChat側に同じキーワードのトリガーを組む。純正機能が自分のアカウントに来たら、同じ言葉を純正の5枠にも登録する。これで展開の前後で動線が切れない。
最後に、2通目の分岐と3日後の追いかけを1本だけ組む。凝った分岐は要らない。「初めてですか/2回目以降ですか」の2択と、返事がなかった人への「その後いかがですか」の1通。これだけで、広告経由の人がリストとして手元に残り始める。純正の自動化が増えるほど、差がつくのは「1通目の後」の設計になる。オーガニック投稿の純正自動化に続いて広告側にも同じ流れが来た以上、ここは今のうちに整えておく価値がある。
最後に:純正が増えるほど、「その先」を持つ店が残る
冒頭のエステサロンでは、その日のうちに放置されていた17人へ、オーナーが1人ずつ手動で「遅くなってすみません」とDMを送った。返事があったのは5人、そのうち2人が予約に進んだ。2週間放置しても、まだ2人は残っていた。裏返せば、放置が3日で止まっていたら、もっと多く残っていたはずだ。追いかけを人の手に頼らず、仕組みに任せる理由はここにある。
「Reply to Keywords」が全広告主に展開されたら、コメント→DMの1通目は誰でも組めるようになる。それは良いことだ。ただ、1通目が誰でも組めるようになった世界では、1通目で差はつかない。差がつくのは、返事をもらった後に何を返すか、返事がなかった人をいつ追いかけるか、その人を次にどう呼ぶか。純正がやらない部分を、あらかじめ設計してある店だけが、同じ広告費で違う結果を出す。