15秒のリールを止めて、映っているものを14個数えた
先週の水曜、鳥栖のカフェで2時間ほど、クライアントのリールを1本ずつ見返していた。目的はいつもの投稿レビューだったのだが、途中でどうしても気になって、別の数え方を始めてしまった。画面に映っているものを、片っ端から数えるという作業だ。
対象にしたのは、ある整体院の15秒のリール。施術ベッドの上で肩まわりをほぐしている、よくある形の投稿だ。1秒ずつ止めて、視界に入るものを書き出していった。施術ベッド、タオル、加湿器、壁の時計、観葉植物、待合の椅子、棚に並んだサプリのボトル3本、市販のマッサージガン、ペットボトルのお茶、ティッシュ箱、スマホ、名前の入っていない段ボール、消毒スプレー、そして窓の外の看板。合計14個。
このうち、その整体院が売っているものはゼロだった。サプリもマッサージガンも、院で扱っている商品ではなく、スタッフが自分用に置いているものだった。つまりこの15秒は、他社の商品を14個ぶん、無料で映している映像でもある。
今までなら、これは「生活感が出ていていいですね」で終わる話だった。ところが2026年8月の今、この14個は別の意味を持ち始めている。Instagramが、リールに映り込んだ商品をAIで見つけて、視聴者にレコメンドする機能をテストしはじめたからだ。
Instagramが「動画の中身」を商品棚として読み始めた
海外のSNS運用メディア各社が2026年8月のアップデートまとめで報じているところによると、Instagramは「Suggested Products(おすすめ商品)」という機能をリールでテストしている。仕組みはこうだ。AIがリール動画の中身を解析し、映っている商品を認識して、視聴者に関連商品を提示する。投稿者側にはオン・オフを切り替えるトグルが用意されている。
ここが従来のショッピングタグと決定的に違う。これまでは、投稿者が「この動画にはこの商品が映っています」と1つずつ手で紐づける必要があった。リールに商品リンクを最大30個まで貼れるようになった件は 「Instagramリールに『商品リンク30個』時代へ」 記事に書いたが、あれも結局は人間が指定する方式だった。今回はAIが勝手に見つけて出す方式だ。指定していないものが出てくる可能性がある、という一点で性質がまるで違う。
Metaがやろうとしていることは分かりやすい。リールを「動画」から「商品棚」に変えることだ。ユーザーが何かを見ている時間を、そのまま買い物の時間に変換したい。TikTok Shopが伸びた市場を見れば、この方向に進むのは自然な流れではある。
問題は、その商品棚に並ぶ商品を、投稿者が完全には選べない点にある。冒頭の整体院のリールで言えば、棚に置かれた他社のサプリと市販のマッサージガンが、AIにとっては最も認識しやすい「商品らしいもの」だ。院の施術を検討しはじめた視聴者の目の前に、他社のサプリのカードが出る。これは広告費を1円も払っていない他社への、静かな送客になる。
逆から見れば、これは追い風にもなる。自分が売っている商品を画面の主役に置いておけば、キャプションにもリンクにも何も書かずに、商品への導線が生まれる。同じ機能が、業種によって真逆に働く。だから今日の話は「オンにすべきか、オフにすべきか」の判断から始まる。
自分の動画の下に商品として並ぶ。
映り込みは、もう背景ではない。
オンかオフかを分ける、3つの判断軸
ManyChatの構築で125社を見てきて、この手の新機能で毎回起きることがある。全員が同じ設定にしてしまうことだ。誰かが「オンにした方が伸びる」と言えば全員オンにし、「危ない」と聞けば全員オフにする。今回の機能は、それをやると片方の業種が確実に損をする。
判断は3つの軸で決まる。3つとも「自分の商売の出口がどこにあるか」を問うている。
一方、整体院、美容室、エステ、士業、教室、工務店のように、価格も内容も相談してから決まる商売は、出口が会話にある。視聴者が動くべき先はカートではなくDMだ。ここに商品カードが挟まると、DMに向かうはずだった指が別の場所をタップする。オフにして守る側になる。
確認方法は単純で、直近5本のリールを一時停止しながら、映っているものを紙に書き出す。自社商品と他社商品を分けて数える。他社のものが半分を超えていたら、オンにする前に片付けるのが先だ。飲みかけのペットボトル、市販のケア用品、パッケージが読める備品。片付けるだけで、AIが拾える候補から自然に消える。
目安は「その商品を、説明ゼロで買えるか」だ。説明ゼロで買えるならオン。説明が要るならオフにして、コメント→自動DMで検討の会話を始める。物販と受注型を両方やっている店は、リール単位でトグルを分けるのが現実的な運用になる。
今日15分でやる、リールの「映り込み棚卸し」
機能はまだテスト段階で、日本の全アカウントに降りているわけではない。それでも今日手を動かしておく価値があるのは、やるべき作業がトグルの設定ではなく、撮影環境の片付けだからだ。機能が来てから片付けるより、来る前に済ませておいた方が明らかに早い。
手順は3つ。全部で15分あれば終わる。
1. 直近5本を一時停止して、映っているものを書き出す。再生しながらでは気づけない。1秒ずつ止めて、パッケージが読めるもの、ロゴが見えるもの、形で商品と分かるものを紙に書く。冒頭の整体院は15秒で14個あった。多くの店は、自分が思っているより2倍映っている。
2. 自社と他社に分けて数える。自社の商品・自社で扱っているもの・自社で作ったものを丸で囲む。それ以外が他社だ。他社の数が半分を超えていたら、撮影場所を片付ける対象になる。飲みかけの飲料、市販のケア用品、名前の見える備品、たまたま置いてあるスマホ。これらは撮影の30秒前に画面の外へ出すだけでいい。
3. 空いた場所に、自社の何を置くか決める。ここが一番大事な工程になる。物を減らして終わりではなく、減らした場所に自分の商品や施術の道具を置く。物販なら売りたい商品を、サービス業なら施術の様子が伝わる道具を。画面の中で一番目立つ位置に、自分の売りたいものが置かれている状態を作る。AIが読むかどうか以前に、人間の視聴者にとってもその方が分かりやすい。
この3手順は、機能がオンでもオフでも効く。オンにするならAIに拾わせたいものを主役にでき、オフにするなら視聴者の視線が余計なものに逸れなくなる。どちらに転んでも損をしない作業だから、先にやっておく。
商品カードが出る時代に、DMが残る理由
SUICSがManyChatを組むとき、いつも最初に確認しているのは「その商売の出口が、購入なのか会話なのか」だ。リールに商品カードが並ぶようになると、この確認はますます重要になる。出口が2つある画面は、片方が必ず弱くなるからだ。
リールで拡散の評価軸がDM送信数へ動いた件は 「Instagramリールは『DMで送られた数』がいいねの3〜5倍」 記事に書いた通りで、Instagram自身も会話の量を見ている。一方で商品カードのテストは、視聴者を会話ではなく購入へ流そうとする動きだ。方向の違う2つの力が、同じリールの下で引っ張り合っている状態にある。
サービス業がここで取るべき態度ははっきりしている。会話の側に全部寄せることだ。プロフィールのリンクが踏まれなくなり、コメント→自動DMが主導線になった流れは 「『プロフのリンク』はもう踏まれない」 記事にまとめたが、この構造は商品カードが出てきても変わらない。むしろ、価格も内容も相談で決まる商売にとっては、カードで完結させられない方が正しい。
物販の側も、全部をカードに任せるのは危うい。カードで買った人は、その1回で関係が終わる。コメントから自動DMに入った人は、リストとして残る。1回の売上を取りにいくのがカード、次の売上を取りにいくのがDMという役割分担で考えると、両方使う理由が見えてくる。
映り込みを設計している店と、していない店
Suggested Productsがいつ日本の全アカウントに降りてくるかは公表されていない。テストのまま消える可能性もある。それでも今日この話を書いたのは、この機能が来ても来なくても、やるべきことが同じだからだ。画面に何を映すかを決めておく。それだけで、機能が降りてきた日に慌てる必要がなくなる。
差がつくのはトグルの設定ではない。撮る前に画面を片付けているかどうかだ。片付けている店は、AIに読ませたいものを読ませられる。片付けていない店は、何が読まれるかを運任せにすることになる。
冒頭の整体院には、その日のうちに14個のリストを送った。返信は「棚のサプリ、自分用に置いてたやつです」だった。次のリールでは、棚に院で扱っている商品が3つ並んでいて、市販のマッサージガンは画面から消えていた。撮影環境を変えるのに、費用も機材も要らなかった。要ったのは、映っているものを一度数えてみることだけだ。