Notes / AI & DX

生成AI「個人任せ64.9%」が、
いちばん大きな穴だった

2026.08.13

クライアント先の事務所で、スタッフ3人が別々のAIを開いていた

先月、あるクライアントの事務所に打ち合わせで伺ったとき、机に並んだ3台のパソコンの画面が目に入った。1台は無料版のChatGPT、1台はGemini、1台はブラウザ内蔵のAIチャット。3人のスタッフが、それぞれ自分の好きなAIを、自分の判断で使っていた。会社として「これを使う」と決めた形跡はどこにもなかった。

気になったのは、その中の1台の画面だった。顧客の名簿らしき一覧をコピーして、無料AIの入力欄に貼り付けようとしていた。悪気はまったくない。目の前の作業を早く終わらせたいだけだ。ただ、その一枚のリストがどこへ流れるのか、本人も、会社も、たぶん誰も把握していなかった。

帰りの車の中で、これは特殊な現場じゃないな、と思った。むしろ、AIを「入れた」と言っている会社ほど、中で起きているのは同じ光景なのではないか。そう感じて、その週のうちに公的な調査を読み直した。数字は、想像していたよりはっきりしていた。

「個人任せ64.9%」——導入したかより、決めているかだった

商工中金が2026年1月に行った調査によると、生成AIの利用を「個人任せ」にしている企業が64.9%にのぼった。つまり、会社として使い方を決めず、社員それぞれの裁量に任せている状態が、いまの多数派だということだ。会社が主導して導入・推奨している積極活用層は、およそ3割にとどまる。

足を引っ張っている理由も見えている。同じ調査で、推進する人材がいないと答えた企業が32.0%、ルール整備が追いつかないと答えた企業が25.1%。人がいない、決まりがない。この2つが、AIを会社の力に変えきれない主因になっている。

一方で、中小機構が2026年3月に公表した調査では、AIの導入率は20.4%。導入した部門は総務・管理部門が68.3%で最も多く、目的は業務効率化・作業時間の短縮が87.0%を占めた。数字を並べると、ひとつの構図が浮かぶ。入れるところまでは進み始めた。けれど、会社として使い方を決める段階で止まっている

2026年公的調査で見えたこと
数字
生成AIを「個人任せ」にしている企業(商工中金)
64.9%
推進する人材が足りない(商工中金)
32.0%
ルール整備が追いつかない(商工中金)
25.1%
中小企業のAI導入率(中小機構)
20.4%
導入部門の最多は総務・管理部門(中小機構)
68.3%

導入率20.4%という数字は、これまで何度も語られてきた。けれど本当の落とし穴は、「入れたかどうか」ではなく「会社として決めているかどうか」の側にある。とくに個人事業主や小規模の会社ほど、人手が足りない分だけ、現場の一人ひとりに判断が丸投げされやすい。決めていない状態は、放っておくとそのまま固まっていく。

個人任せのまま進むと、静かに3つのコストが積み上がる

「みんな各自で使っている」状態は、一見すると自由で、前向きに見える。実際、最初の数週間はそれで回る。問題は、目に見えないところで3つのコストが溜まっていくことだ。

ひとつめは、情報が漏れるリスク。冒頭の顧客名簿のように、社外に出してはいけない情報が、判断のないまま無料ツールへ流れる。ふたつめは、品質のバラつき。同じ会社なのに、AIに書かせた文章のトーンも精度も人によって違い、お客さんから見た会社の顔がぶれる。みっつめは、属人化。「あの人しかそのAIの使い方を知らない」状態が生まれ、その人が抜けた瞬間に業務が止まる。

もう少し具体的に想像してみる。ある日、スタッフの一人が見積書のたたき台をAIに作らせたとする。速い。助かる。けれど金額の桁がひとつずれていて、そのまま送ってしまった。あるいは、別のスタッフが顧客からの問い合わせ返信をAIに書かせたら、うちが扱っていないサービスを勝手に案内していた。どちらも、悪意ではなく「各自が良かれと思って速く動いた」結果として起きる。個人任せの怖さは、誰も悪くないのに事故だけが起きることにある。

どれも、事故が起きるまで表に出てこない。だからこそ、まだ何も起きていない今のうちに、会社としての最低限のルールを紙1枚で決めておくほうがいい。難しい規程はいらない。決めるのは、次の3つだけでいい。

会社として最初に決める、3つのルール

ここから、実際に現場へ落とし込める3つのルールを1つずつ書く。順番にも意味がある。上から決めていくと、抜け漏れが起きにくい。

Rule 01
貼っていい情報・ダメな情報の線引きを、先に決める
所要15分/紙1枚・A4横で十分
いちばん最初に決めるのは、AIに渡していい情報と、渡してはいけない情報の境目だ。判断を現場に委ねると、忙しい日ほど「まあいいか」で線を越える。だから会社が先に線を引く。渡してはいけない側に「顧客の氏名・連絡先・購入履歴」「未公開の見積もり・契約金額」「スタッフの個人情報」を置き、渡していい側に「公開済みの情報」「社名や個人名を消した文章」を置く。この一覧を全員が見える場所に貼るだけで、事故のほとんどは防げる。
決める
渡す/渡さない
紙1枚の一覧
効果
漏えい予防
Rule 02
使うツールを、会社として1本に決める
所要30分/まず主役を1つ選ぶ
次に、社員がバラバラに選んでいるツールを、会社として1本に絞る。3人が3つのAIを使うと、使い方のコツも失敗の教訓も共有されず、毎回ゼロからのやり直しになる。主役を1本に決めれば、うまくいった使い方が横に広がり、有料プランの管理も情報の入口も1か所に集まる。選び方は、自社がいちばん時間を食っている作業に効くものを基準にする。他のツールは禁止ではなく「お試しは1本に決めたもの以外でもいいが、業務で本番運用するのは主役1本」と決めるだけで、現場は驚くほど整理される。
決める
主役1本
基準
時間を食う作業
効果
知見が集約
Rule 03
成果物の最終チェックは、必ず人が持つ
所要ゼロ/運用の合言葉にするだけ
3つめは、AIが作ったものを外に出す前に、必ず人が最終確認する、と決めること。AIは平気で事実を作る。日付、金額、固有名詞、法律にかかわる表現。ここを人が最後に見る役割を残しておかないと、AIの速さがそのまま事故の速さに変わる。おすすめは「AIは下書きまで、清書と送信の判断は人」という一言を運用の合言葉にすること。責任の所在が言葉ではっきりするだけで、現場の使い方は一段しまる。速さは手放さず、判断だけ人に残す。この線引きが、AIを安心して任せられる状態を作る。
決める
最終確認は人
対象
数字・固有名詞
効果
品質を担保
決めていない自由は、
事故が起きるまで自由に見える。
紙1枚で線を引いた会社から、
AIは静かに戦力に変わる。
From Personal Use To Company Rules
「個人任せ」から「会社の型」へ、3つのルールで組み替える
BEFORE / 個人任せ 64.9% 各自バラバラにAIを使う 情報漏えいのリスク 品質がバラつく 属人化して止まる 紙1枚 AFTER / 会社の型 会社として決める Rule 01 情報の線引き 渡していい/ダメを決める Rule 02 ツールを1本に 主役を決めて知見を集約 Rule 03 最終チェックは人 数字・固有名詞を人が確認 ツールを増やす前に、まず3つを決める。速さは手放さず、判断だけ人に残す。 RULES BEFORE TOOLS

ルールは「縛り」ではなく、任せるための土台

3つのルールと聞くと、AIの使用を制限する話に聞こえるかもしれない。実際は逆だ。線引きがあるから、社員は迷わずAIを使える。「これは渡していい」「本番はこのツール」「最後は人が見る」と決まっていれば、一人ひとりが安心して速く動ける。決まっていないから、慎重な人ほど使えず、勢いのある人ほど危ない橋を渡る。

そして、この3つは一度決めて終わりではない。会社の業務が変われば、渡していい情報の範囲も、主役のツールも変わっていく。SUICSがふだんクライアントと組むときも、まず今の業務の流れを一緒に書き出し、どこにAIを入れて、どこは人が持つかを分けるところから始める。ツールの話は、その後だ。順番を「ツールが先」から「業務と決めごとが先」に入れ替えるだけで、同じAIでも成果がまるで変わる。

AIを最初に入れる部署の選び方は 「AIを最初に入れる部署は“総務”だった」 記事、最初の1業務の選び方は 「中小企業のAI導入率20.4%・最初の1業務の選び方」 記事も参照してほしい。

「会社としてどう決めればいいか分からない」と思ったら

3つのルールは、紙1枚で自社だけでも作れる。ただ、いざ書こうとすると「うちの業務だと、どこまでを渡していい情報にすべきか」「主役のツールは何を基準に選べばいいか」で手が止まりやすい。そこは、業務そのものを一度ほどいて並べ直す作業だからだ。

SUICSのAI/DX診断では、いきなりツールを勧めることはしない。まず御社の業務を一緒に棚卸しして、人が持つ判断とAIに任せる作業を仕分けし、そのうえで3つのルールを御社仕様に落とし込む。個人任せで散らばっていたAIの使い方を、会社の型として1本にまとめるところまで伴走する。

やることの順番は、いつも同じだ。今の業務を書き出す、渡していい情報の線を引く、主役のツールを1本決める、最後に人が確認する役割を残す。派手なツールを探す前に、この地味な4手を踏んだ会社だけが、AIを事故なく戦力に変えていける。64.9%が個人任せのままでいる今は、逆に言えば、先に型を作った会社が一歩抜け出せる時期でもある。まだ何も起きていない今日のうちに、紙1枚から始めてほしい。

SUICS Service — AI / DX 導入支援
「個人任せ」を、会社の型に。業務構造化から始めるAI/DX診断。
解決できる悩み:「社員が各自バラバラにAIを使っていて不安」「顧客情報を無料AIに貼っていないか心配」「使うツールを会社として1本に決めたい」「AIに任せる作業と人が持つ判断を仕分けしたい」「ルールを紙1枚に落として全員で共有したい」「ツール選定より先に業務の流れを整理したい」。業務棚卸し→判断とAIの仕分け→3つのルールの自社仕様化→定着支援まで、順番を守って伴走します。
AI/DX の詳細を見る →

御社のAIの使い方、会社の型に整えませんか

「個人任せの状態を会社のルールに変えたい」
「情報の線引きとツール選びを一緒に整理したい」
「業務の棚卸しからAI導入を進めたい」
どんなレベルの相談でも気軽にどうぞ。

無料相談はこちら