9月18日の朝7時50分、博多駅のカフェで開いた整体院のHPは、院長あいさつが2021年のままだった
9月18日、木曜の朝。博多駅のカフェで、翌週に打ち合わせをする整体院のHPをスマホで開いた。トップページの写真はきれいだった。ただ、「院長あいさつ」の日付は2021年で、料金表のページは2023年に一度直したきり。今年の春から始めた「産後の骨盤ケア」は、HPのどこにも書かれていなかった。次に、Googleで院の名前を検索した。右に出る店の情報の枠は、営業時間と電話番号と口コミが並んでいて、「ビジネスの説明」の欄は空だった。最後にInstagramを開くと、プロフィールの1行目には「産後骨盤ケア専門」とあった。同じ整体院なのに、3か所で、3通りの店になっていた。
これまでは、この3通りを人が読み、前後を見て補ってくれていた。ところがその前日、9月17日に米国で報告された動きは、この3通りをGoogleのAIが読み、AIの言葉で1つにまとめ、店名で検索した人の目の前に出す、というものだった。店名で検索されたとき、最初に読まれる「店の紹介文」を、店主ではなくGoogleのAIが書く。その時にAIが材料にするのは、店主が書いた場所と、他人が書いた場所の両方だ。書いていない店ほど、他人の言葉と古い言葉で紹介される。この記事では、そうなる前に店主の側で用意しておく3つの情報を、3か所で3通りだった整体院の実例と一緒に書く。
9月17日に何が起きたか——店名検索の枠の先頭に「AI Overview」の札が付き、店の説明をAIが自分の言葉で書いていた
先に、言葉を2つだけそろえておく。Googleで店の名前を検索すると、右側(スマホでは上のほう)に、営業時間・電話番号・住所・口コミがまとまった枠が出る。この枠はGoogleが「ビジネスプロフィール」と呼ぶ登録情報から作られていて、専門家の間では「ナレッジパネル」(店の基本情報をまとめた箱)と呼ばれている。もう1つ、「AI Overview」(AIによる概要)は、Google検索の一番上にAIが要約を書いて出す機能のことだ。
9月17日、米国の検索専門メディアSearch Engine Roundtableの編集長バリー・シュワルツ氏が、この2つが合体した画面を報告した。店の情報の枠の先頭に「AI Overview」の札が付き、その下に、店の説明がGoogleのAIの言葉で書かれている。「Show more(もっと見る)」を押すと、そのままAIモード(その店についてチャットで追加の質問ができる画面)に入る。最初にローカル検索の専門家ベン・フィッシャー氏がLinkedInで共有し、シュワルツ氏も自分の会社名で同じ表示を再現できたと書いている。Googleはこれまでも、AIが説明文を提案する機能や口コミのAI要約を段階的に試してきたが、枠の先頭を丸ごとAIの要約にする形は今回が最も踏み込んでいる。Googleからの公式発表はなく、9月20日の時点では一部の人にだけ出るテスト段階だ。日本語の検索で同じ表示が出るかは、私の手元では9月20日の朝の時点で確認できていない。
この記事で一番伝えたいのは、シュワルツ氏がその記事に添えた一言だ。要約の内容はおおむね正しかったが、事業の説明が「少し古い」。ただしそれはAIのせいではなく、自分の会社のHPの内容がとても古いままだから、と書いている。AIは、店の紹介を新しく考えてくれるのではない。すでにネットに置いてある言葉を、そのまま拾って並べる。HPが古ければ、古い店として紹介される。
AIが読むのはどこか——Google公式ヘルプが「情報の入手元」を4つ、はっきり書いている
AIがどこを読むのかは、Google自身が公式ヘルプに書いている。9月20日に「Google がビジネス プロフィールとローカル検索結果の情報を入手する方法」のページを開いて確認した。入手元は4つ。1つ目は、一般に公開されている情報で、例として「企業の公式ウェブサイトの情報」が挙げられている。2つ目は、第三者がライセンスを持つデータ。3つ目は、ユーザーが提供する情報で、ここには店主がビジネスプロフィールに登録した住所や電話番号と、お客さんが投稿した写真や口コミの両方が入る。4つ目は、店とGoogleとのやり取りに基づく情報だ。
整理すると、AIが材料にする場所は「店主が書く場所」が2つ(HPとビジネスプロフィール)、「他人が書く場所」が2つ(口コミと第三者のサイト)ということになる。店主が書く2つが空欄か古いままだと、材料の半分が他人の言葉になる。冒頭の整体院は、HPが古く、ビジネスプロフィールの説明欄が空だった。この状態でAIに紹介を任せると、「2021年の院長あいさつ」と「他人が書いた口コミ」から店の姿が組み立てられる。産後の骨盤ケアは、どこにも出てこない。
もう1つ、公式ヘルプで確認できた便利な事実がある。Googleのビジネスプロフィールには、説明文をAIに提案してもらう機能があり、その提案は「ビジネス プロフィールやウェブサイトなどの他のソースの情報に基づいて」作られる、と明記されている。つまりこの機能を一度押してみると、GoogleのAIが今の自分の店をどう読んでいるかの答え合わせができる。提案文に古いメニューが出てきたら、それはHPのどこかに古い文章が残っている印だ。なお、この機能は一部の地域と言語に限られ、全員が使えるわけではない、ともヘルプに書いてある。
店主が先に書いておく3つの情報——3か所に、同じ言葉で置く
やることは、難しくない。「何屋か」「誰向けか」「どう予約するか」の3つを、短い文で決め、Googleビジネスプロフィールの説明欄・HPのトップページ・Instagramのプロフィール、の3か所に同じ言葉で置く。AIが3か所を読んで「同じ店だ」と迷わず言えれば、要約もその言葉で書かれる。整体院では、この3つを決めるのに40分、3か所に入れるのに20分かかった。1時間で、3通りの店が1通りになった。
置いてある言葉を、そのまま並べる。
整体院で実際にやった1時間——3通りの店が1通りになるまで
9月18日の打ち合わせで、整体院の院長と一緒にやったことを、そのまま書く。まず、Googleのビジネスプロフィールの管理画面を開き、「プロフィールを編集」から「説明」の欄を見た。空だった。院長は「そんな欄があるのを知らなかった」と言った。次に、HPの「院長あいさつ」を読み上げてもらった。2021年に書いた文章には、当時の看板メニューだった「スポーツ整体」が3回出てきて、産後のケアは1回も出てこなかった。最後にInstagramのプロフィールを開くと、1行目は「産後骨盤ケア専門」。院長本人が半年前に書き換えたものだった。同じ人が、同じ店を、3か所で3通りに説明していた。
そこから、3つの情報を紙に書いた。何屋か、は「◯◯市の、産後の骨盤ケア専門の整体院」。誰向けか、は「産後1年以内で抱っこで腰がつらい方、日曜午前に子ども連れで来たい方」。どう予約するか、は「InstagramのDMで『予約希望』と送ってください。電話も可」。決めるのに40分かかった。院長が一番迷ったのは「スポーツ整体をやめたと思われないか」だった。私の答えは、今年来ている人の6割の方を軸にして、残りは「スポーツのケアも続けています」と1行添える、だった。3か所に入れる作業は20分。ビジネスプロフィールの説明欄、HPのトップの最初の見出しの下、Instagramのプロフィール、の順で、同じ文を貼った。Google公式ヘルプによると、プロフィールの変更が反映されるまで通常は10分ほどで、場合によっては30営業日ほどかかることもある。翌日の朝、院名で検索すると、説明欄の文章は反映されていた。
正直に書いておくと、この整体院でAIの要約の表示が出ているかは、9月20日の時点では確認できていない。日本でいつ、どの店に出るかはGoogleも発表していない。ただ、AIの要約が出ても出なくても、店名で検索した人がGoogleで最初に読む「説明」欄と、次に開くHPと、Instagramの1行目が、同じ言葉で同じ店を指している状態は、今日の時点でもう価値がある。AIの表示は、その延長線に来るだけだ。
最後に:紹介文を書くのがAIになっても、材料を置くのは店主のままだ
「AIに自分の会社を説明されたくない」。9月17日の記事でシュワルツ氏はそう書いていた。私も同じ気持ちだ。ただ、この流れは止まらないと思っている。だから、対策は「AIに説明させない」ではなく、「AIが説明に使う材料を、店主の言葉で置いておく」の一択になる。紹介文を書く役がAIに移っても、材料を置く役は、店主のまま変わらない。置いていない店の材料は、他人の言葉と古い言葉で埋まる。
今週やることは、3つの情報を紙に書いて、3か所に同じ言葉で貼るだけだ。整体院は1時間だった。もし今、Googleのビジネスプロフィールの「説明」欄が空なら、そこが一番の空白だ。まず、そこから埋めてほしい。そして、HPの日付を見てほしい。2021年の文章で紹介されるか、今日の文章で紹介されるかは、今日決められる。