9月4日の夜、新幹線の中でGoogleドライブを開いたら、見積書テンプレが6種類あった
9月4日、木曜の夜。福岡から戻る新幹線の中で、スマホに流れてきた「GPT-6 Astra」の発表記事を読んでいた。目に留まったのは、賢さの話ではなかった。「自社のテンプレートと指示に沿って、文書やスプレッドシートを作る」という一文だ。うちのテンプレ通りに作ってくれるなら、と思って、その場で自分のGoogleドライブの「テンプレート」フォルダを開いてみた。
見積書のテンプレートが6種類あった。「見積書_雛形.xlsx」「見積書_雛形_v2.xlsx」「見積書_2025改.xlsx」「見積書_最終.xlsx」「見積書_最終_修正.xlsx」「見積書(コピー).xlsx」。開いて比べると、消費税の計算式が入っているのが2つ、備考欄の決まり文句が違うのが3つ、去年やめた支払い条件が残っているのが1つ。自分が普段使っているのは「最終_修正」だと分かっていたが、それはフォルダを見て分かることではなく、自分の頭の中にしかない情報だった。
ここで気づいた。AIが「うちのテンプレ通りに作る」ようになっても、渡すテンプレが6種類あるままなら、AIは6種類のうちどれかを勝手に選ぶ。賢いモデルが来る前にやることは、モデルの比較ではなく、フォルダの中身を1本にすることだった。今日はGPT-6 Astraの発表で何が変わるのかを整理したうえで、個人事業主が最初に渡す社内テンプレ3つと、渡す前にテンプレへ書き込む1行について書いていく。
9月3日に何が発表されたか——「賢くなった」より「型を守る」が前面に出た
まず事実を、OpenAIの発表と主要メディアの報道の範囲でそろえる。2026年9月3日(米国時間)、OpenAIは新モデル「GPT-6 Astra」を発表した。コーディング、調査、パソコン操作、複数の手順をまたぐ業務の性能向上に加えて、発表で前面に置かれたのが「自社のテンプレートと指示に沿った文書・スプレッドシート・プレゼン資料の作成」だ。まず企業向けに提供が始まり、数日のうちにChatGPTのPlus・Pro・Business・Enterpriseの各プランとAPIにも展開される予定だと報じられている。
あわせてChatGPT側にも2つの機能が加わる。Googleドライブへの直接アクセスと、パソコンでの操作履歴を参照する「Computer History」だ。前者は、ドライブに置いたテンプレートや過去の資料をChatGPTが自分で開いて参照できるということで、後者は「先週この作業をどうやったか」をAIが手順として見られるということになる。細かな仕様は今後変わる可能性があるので、使う前に公式ヘルプで確認したほうがいい。
ここまでのモデル更新は、ざっくり言えば「もっと賢く、もっと速く」の競争だった。「AIは“一番高いモデル”を買うと損する」 で書いたとおり、個人事業主の日常業務の9割は中位モデルで足りていて、賢さの伸びは実務に直接は響きにくかった。今回が違うのは、伸びた方向が「賢さ」ではなく「言われた型を守る力」だという点だ。見積書の型、提案書の型、月報の型。この3つをAIが崩さずに埋められるかどうかは、個人事業主にとって、賢さの1点差より大きい。そして数日でPlusにも届くということは、今のプランのまま、この変化を今週体験できるということでもある。
125社の現場で見てきた「型が守られない」問題の正体
ManyChat構築で125社と向き合ってきて、AIに資料作成を任せようとした店主が途中でやめる理由は、ほとんど1つに集約されていた。「毎回、うちの形と違うものが出てくる」だ。見積書を頼めば項目の順番が変わり、提案書を頼めば見出しの立て方が変わり、月報を頼めば列の並びが変わる。直す時間が作る時間を超えて、結局自分で作る。これを「AIが賢くないから」と受け取っていた人が多かったが、実際は違った。
原因は2つあった。1つは、AIに「うちの型」を見せていなかったこと。頭の中にある型を言葉で説明するのは難しく、たいてい「いつもの感じで」と頼んでいた。もう1つは、見せたとしても、型そのものが1本に定まっていなかったことだ。冒頭の6種類の見積書がそれで、渡す側が「どれが正か」を決めていない。GPT-6 Astraがテンプレを守る方向に進化したことで、1つ目の問題は小さくなる。ただし2つ目は、モデルがどれだけ賢くなっても解決しない。渡す型を1本に決めるのは、AIではなく人の仕事のままだ。
そこで、最初に渡すテンプレを3つに絞る。選ぶ基準は「毎月2回以上作っている」「作るたびに30分以上かかっている」「型が崩れるとお客さんに見える」の3点だ。この基準で選ぶと、業種を問わず、だいたい次の3つに落ち着く。
問われるのは、
渡す型が1本に決まっているかだ。
今週やること——Plusに届く前に、フォルダを1本にして「正」と名づける
GPT-6 Astraは企業向けから始まり、Plusには数日で届くと報じられている。つまり今週末が、渡す側の準備期間だ。やることは3つで、合計しても1時間で終わる。
1つ目は、Googleドライブの「テンプレート」フォルダを開いて、見積書・提案書・月報の3つについて、それぞれ「これが正」と決めた1ファイルにファイル名で印をつける。自分の場合は「見積書_正.xlsx」「提案書_正.docx」「月報_正.xlsx」にした。残りは「旧テンプレ」フォルダへ移す。削除はしなくていいが、正と同じ階層には置かない。AIがドライブを参照する時代は、フォルダの中身がそのままAIへの指示になる。
2つ目は、3つの正テンプレの空欄に、「何を入れるか」の1行を書き込む。見積書は品目の書き方と備考の決まり文句、提案書は見出しごとの行数、月報は列の定義。これを書く作業は、「Claudeの記憶に入れていい情報・入れてはいけない情報」 で書いた「店のプロフィールを1枚書く」と同じ性質のもので、自分の店のやり方を言葉にする作業になる。3つ目は、AIに渡す最初の指示文を1本だけ用意しておく。形は次のようなもので十分だ。
最後の1行が大事だ。「迷った箇所を教えて」と添えておくと、AIが勝手に埋めた部分が見えるようになる。そこがテンプレの注記が足りていない場所なので、注記を1行足して、次回から迷わせない。3回ほど回すと、注記が育ち、直す箇所がほぼなくなる。「ChatGPT無料版が“テキスト無制限”に」 で書いたとおり、課金を続けるかの判断基準は「週に何回、実務で使ったか」だった。テンプレ3つが回り始めると、この回数は自然に増える。
最後に:モデルが賢くなるほど、人の仕事は「型を決めること」に寄っていく
新幹線の中で見つけた6種類の見積書は、どれも自分が作ったものだった。少しずつ直しては別名で保存し、どれが正かを頭の中だけで管理していた。人に渡すなら「最終_修正が今のやつです」と一言添えれば済む。AIに渡すなら、その一言はフォルダとファイル名と注記で書いておく必要がある。GPT-6 Astraが変えたのは、この一言を書く価値が跳ね上がったことだ。
賢さの競争は続くだろうし、来月にはまた別の発表があるだろう。ただ、渡す側の型が1本に決まっていれば、モデルが変わっても指示文はほとんど変わらない。見積書、提案書、月次の数字まとめ。この3つのフォルダを今週末に1時間だけ片づけて、「正」と名づけてみてほしい。それが、次に届くどのAIにも通じる、いちばん安い準備になる。