土曜の午後、カメラロールに眠る「未投稿の動画47本」を見せてもらった
8月最後の土曜の午後、佐賀市内のカフェで、クライアントの雑貨店オーナーとスマホを挟んで座っていた。「撮ってはいるんですよ」と言いながら見せてくれたカメラロールには、店内の新商品、ラッピングの手元、開店前の棚づくり——動画が47本並んでいた。投稿されたのは、そのうち3本だった。
44本は、編集を待ったまま眠っていた。切って、並べて、テロップを乗せて、音を合わせる。その作業を想像した瞬間に手が止まり、「今度の休みにやろう」が3週間続く。撮影はできるのに、編集で止まる。この店に限らず、リール運用が続かない店舗のカメラロールは、だいたい同じ景色をしている。
その44本に、追い風が吹いた。2026年8月25日、Instagramの公式動画編集アプリ「Edits」に、新機能「First Draft」が発表された。クリップを選んで渡すだけで、AIが「最初の編集」=たたき台を自動で組み立ててくれる機能だ。今日は、この機能で何が変わるのかと、編集で止まっていた人がリールを量産体制に切り替える3ステップを書いていく。
First Draftは「完成品を作るAI」ではなく「最初の一手を代行するAI」
First Draftの仕組みは単純だ。Editsの中で、使いたいクリップ(撮影素材)を選ぶ。するとAIがクリップを解析して、カットの順番、切るポイント、つなぎを組んだ「編集の下書き」を自動で作る。ユーザーはゼロのタイムラインからではなく、すでに形になったたたき台から編集を始められる。あわせてEditsには、素材をフォルダで整理する「Folders」機能もテスト中で、撮りためた素材の管理から下書きまでが公式アプリの中で完結する流れができつつある。
ここで押さえておきたいのは、First Draftは「完成品を作るAI」ではないということ。名前の通り、あくまで「最初の下書き」だ。お店の売りをどのカットで見せるか、冒頭の1秒に何を置くか、といった判断は残る。ただ、リール編集でいちばん重いのは、実はその判断ではない。白紙のタイムラインを前に、どこから手をつけるか考える「最初の一手」だ。書類仕事で例えるなら、白紙から書くのと、下書きを直すのとでは、着手のハードルがまるで違う。First Draftが代行するのは、まさにそこになる。
Editsは無料の公式アプリで、8月にはPC版も使えるようになっている。PC編集の詳細は 「Instagram公式Editsが“PC編集”解禁」 の記事に書いた通りだ。つまり「撮る→整理する→AIが下書き→人が仕上げる」までが、追加費用ゼロで揃ったことになる。編集外注に月数万円払っていた店舗は、その前提から見直せるタイミングだ。
もう1つ、公式アプリの中に下書き機能が入った意味は大きい。これまでも編集を楽にするアプリは山ほどあったが、別アプリで書き出してから投稿する手間と、音源や仕様の食い違いが、続かない原因になっていた。Editsなら素材の整理から下書き、仕上げ、投稿までが同じ場所で終わる。「アプリを行き来しているうちに面倒になってやめた」という、いちばん多い脱落パターンが構造ごと消える。
編集で止まっていた人が量産体制に切り替える3ステップ
ManyChat構築で125社のInstagram運用を見てきた経験から言うと、First Draftのような機能は「導入した店」と「導入して仕組みに組み込んだ店」で差がつく。機能を触るだけで終わらせず、週の運用に落とすための3ステップを書く。
人が握るのは、冒頭1秒と、
投稿の先にあるDMの出口。
AIの下書きに任せてはいけない、たった1つのもの
First Draftの登場で、「編集ができないから投稿できない」という言い訳は成立しなくなっていく。ただし、注意点も書いておきたい。AIの下書きは、素材の中から「映像としてつながりのいい並び」を作るのは得意でも、「この店が誰に何を売りたいか」までは知らない。たとえば美容室の動画なら、AIはビフォーアフターの一番きれいなカットを選ぶかもしれないが、「初めての来店が不安な人」に刺さるのは、施術中の会話の空気だったりする。狙いを決めるのは、店を知っている人間の仕事として残る。
もう1つ。編集が楽になると投稿本数は確実に増える。そのとき伸び方を分けるのは、1本ごとの完成度ではなく、視聴からDMまでの設計だ。リールが最後まで見られる作り方は 「リール3分時代の集客設計」 の記事で書いたので、量産に入る前に一度読み返してほしい。
週の運用イメージも書いておく。月曜から金曜は、営業の合間に30秒の素撮りを1〜2本。土曜の朝に30分だけ席について、First Draftに下書きを作らせ、3箇所直して3本仕上げる。予約投稿で週3本を並べたら、残りの時間はコメントに反応する自動DMの返信文とボタンを1つ改善する。これで「週3本投稿+導線改善」が、週1時間以内に収まる。編集に丸1日かけていた頃と比べれば、続けられる形になったと実感できるはずだ。
冒頭の雑貨店オーナーには、その場でEditsを入れてもらい、まず眠っていた44本をフォルダに分けるところから始めてもらった。「編集しなきゃ」が「直すだけでいい」に変わると、表情が変わる。撮る力はもうある。止まっていたのは、最初の一手だけだった。