レジ横のQRコードを読み取って、フォローせずに店を出た
先週の金曜、佐賀市内のうどん屋で昼を食べた。会計を待っていたら、レジ横に小さなスタンドが立っていた。「Instagramやってます。フォローお願いします」の文字と、QRコード。スマホをかざすと、店のプロフィールページが開いた。投稿が並んでいて、フォローボタンがあって、それだけだった。おつりを受け取って、スマホをポケットに戻して、店を出た。フォローはしなかった。
帰りの車で考えた。あの店は、レジ横という店内でいちばん目立つ場所をQRコードに割いている。実際に読み取った客もいる(自分だ)。それなのに、何も起きなかった。悪いのは店でも客でもなく、QRコードの「行き先」だ。プロフィールに飛ばされた客は、湯気の残る店先で「この店をフォローするかどうか」という判断を迫られ、たいていは何もせず画面を閉じる。
その「行き先」が、いま変わろうとしている。Instagramが、読み取ると店とのDMチャットが直接開くQRコードを事業者が作れる機能のテストを始めた。プロフィールもフォローも挟まず、いきなり会話が始まる。この記事では、この新機能が店頭集客の何を変えるのかと、使えるようになった日に備える「3つの置き場所」、そして今日からできる準備までを書く。
「QR→プロフィール」から「QR→DM」へ、Instagramのテストが始まった
2026年8月末から、海外のSNSメディアが相次いで報じている。Instagramが事業者向けに、読み取るとそのアカウントとのDMチャットが直接開く専用QRコードの作成機能をテストしている。従来のQRコードはプロフィールページに飛ぶだけだったから、これは行き先の仕様が根本から変わる話だ。
あわせてDMまわりでは、返信数が見える「返信カウンター」や、スクリーンショットをそのまま共有できるシートの復活など、機能強化が続いている。Instagramが「DMを会話の入口として太くする」方向に舵を切っているのは、この数ヶ月の動きを並べれば明らかだと思う。
まだテスト段階で、すべてのアカウントで使えるわけではない。それでも今この記事を書くのは、この機能が「店頭にオフライン接点を持つ店」ほど恩恵が大きく、先に設計を済ませた店から順に差がつくからだ。飲食店、美容室、整体院、小売店。毎日お客さんが物理的に目の前に来る業種にとって、これは告知機能の追加ではなく、集客導線の入口が1つ増える話になる。
ManyChatの構築を125社やってきた立場から言うと、店頭QRの本当の価値は「フォロワーが増える」ことではない。DMが1通でも届けば、その人は店の「DMリスト」に入る。DMリストはアルゴリズムに左右されず、こちらから会話を再開できる。フォロワー数は他人のプラットフォーム上の数字だが、DMの会話履歴は店が自分で使える資産だ。
DMは「連絡先」。
店頭のQRは、連絡先を集める入口になる。
店頭からリスト化する、3つの置き場所
置き場所によって、お客さんの滞在時間と気持ちが違う。だからQRコードは「どこに置くか」で、添えるオファーの中身を変える必要がある。店舗の現場でDM導線を設計してきた経験から、効く置き場所を3つに絞る。
勘違いしやすい3つの注意点
導入を考える前に、仕様のクセを3つ押さえておきたい。1つ目、QRコードを読み取られただけでは、リストには入らない。DMの画面が開くところまでが機能の仕事で、お客さんが1通送って初めて会話が成立する。だからこそ、QRの横に「『クーポン』と送ってください」のように、送る言葉を書き添える設計が本体になる。画面が開いたのに何も書かれていない、が最ももったいない失敗だ。
2つ目、この機能はまだテスト中で、日本の全アカウントで使える状態ではない。ここで「来てから考える」に回すと、正式に来た日から設計を始めることになり、印刷物の入れ替えまで含めて1〜2ヶ月遅れる。逆に言えば、いま自動応答と紙のデザインまで済ませておけば、機能が来た日が公開日になる。
3つ目、DMには時間のルールがある。お客さんからメッセージが来たあと、店側が自由に返信できるのは基本的にその会話から24時間以内。それを過ぎた再アプローチには条件がつく。つまり「届いた1通にすぐ自動で返す」仕組みがないと、せっかくの入口が夜のうちに冷めてしまう。営業中に手が離せない店ほど、最初の返信だけは自動化しておく意味が大きい。
機能が来るまで待たない、今日できる2つの準備
テスト中の機能だから、自分のアカウントで使えるのは少し先かもしれない。ただ、待つ必要はない。まず1つ目、「読み取るとDMが開く」動きは、今でも再現できる。Instagramには ig.me/m/ユーザーネーム というDM直行リンクが以前からあり、このURLを無料のQRコード作成ツールに通せば、行き先がDMのQRコードが今日作れる。公式のQR機能が正式に来たら、印刷物のコードを差し替えるだけでいい。
2つ目は、置き場所より先に決めるべきものだ。DMが開いた画面で、お客さんが最初に何を送り、店が何を返すかという「最初の1往復」の設計。ここが空白のままだと、せっかくDMが開いても、お客さんは何を書けばいいかわからず閉じてしまう。やることは3点。送ってほしい1語を決める。その語に自動で返る返答をManyChatで用意する。返答の中に次の行動(クーポン利用・予約・メニュー表)を1つだけ入れる。この3点が済んでいれば、公式機能が使える日から店頭がそのまま入口として動き出す。
Instagramの入口は、この1年で急に増えた。新規フォロワーに自動あいさつを送る仕組みは 「新規フォロワーに自動あいさつDM」の記事 で、投稿をシェアしてくれた人へ自動DMを送る新トリガーは 「Share to DM」の記事 で書いた。オンラインの入口が出揃ってきた今、最後に残っていたオフラインの入口を埋めるのが、今回のQRコードだ。
最後に:あのうどん屋のレジ横が入口に変わる日
冒頭のうどん屋の話に戻る。あの店のQRコードは、場所も、目立ち方も、置き方も正しかった。惜しかったのは行き先だけだ。行き先がプロフィールからDMに変われば、同じスタンド、同じレジ横で、「読み取った客が黙って帰る店」と「読み取った客と会話が始まる店」に分かれる。
店頭のいちばん良い場所にQRコードを置いている店は、佐賀にも全国にもたくさんある。その1枚の行き先を見直すだけで、毎日の来店客がDMリストという資産に変わっていく。DM自動化で問い合わせがどう変わったかは 佐賀の個人事業主の実例記事 にまとめている。今度あのうどん屋に行ったら、会計のときにこの話をこっそり教えようと思う。