5月のある朝、クライアントの設定画面を開いたら、AIが勝手に下書きを作っていた
5月の半ば、いつも通り朝のコーヒーを片手に、整体院のクライアントのManyChat管理画面を開いた。前日に頼まれていたキーワード分岐を1本足すつもりだった。ところが、見慣れない「AI Behavior」というパネルが増えていて、開いてみると、そのクライアントのInstagramプロフィール文と直近のコメントをAIが勝手に読み込んで、「このアカウントはこういう口調で、こう返信するのがよさそうです」という初期設定の下書きまで提案してきた。
コーヒーを置いて、しばらく画面を眺めた。これまで僕がヒアリングシートで30分かけて聞き出していた「お店のトーン」を、AIが数秒で当ててきたからだ。完璧ではなかったが、骨格は合っていた。あ、これはManyChatの作り方そのものが変わる合図だな——そう直感した瞬間、その日の予定は半分飛んだ。
2026年の4月から5月にかけて、ManyChatはAI機能を一気に拡張した。キーワードを完全一致でひたすら積み上げる従来のやり方が、静かに役目を終えようとしている。今日は、何が変わったのか、そして125社を組んできた立場として、個人事業主・店舗オーナーが今やっておくべき3つの手順を全部書く。
そもそも、4〜5月に何が増えたのか
増えたのは大きく3つの機能だ。名前だけ見ると難しそうだが、役割で見るとシンプルに分けられる。
Feature 01
AI Behavior ── AIの「性格」を決める設定
2026年4月実装/口調・ペルソナ・ガードレール
AIがどんな口調で、どんなキャラクターとして、どこまで答えてよいか(ガードレール)を決める場所。Instagramのプロフィール文や最近のコメントをAIが読んで初期設定を提案してくる。冒頭で僕が驚いたのがこれだ。お店の「人格」をAIに持たせる、いわば土台の設定になる。
Feature 02
AI Replies + Knowledge Library ── 質問に自動で答える本体
2026年5月時点で稼働/Instagram限定・有料プラン必須
DMやコメントで来た質問に、AIが自動で回答する機能。回答の根拠になるのが「Knowledge Library(知識ベース)」で、ここに入れた自社情報をAIが参照して答える。料金・営業時間・予約方法・よくある質問を入れておけば、キーワードを1本も作らなくても、AIが文脈を汲んで返してくれる。ただしInstagramチャンネル限定で、有料プランが前提になる。
Feature 03
Playground ── 公開前に会話を試せる練習場
公開前シミュレーション/回答の穴を事前に発見
実際のDM会話を公開前にシミュレーションできる機能。お客さんの代わりに自分で質問を打ち込んで、AIがどう返すか、何の情報が足りていないかを事前に確認できる。誤回答を世に出す前に潰せる、地味だが最重要の安全装置だ。
3つをまとめると、こういう構図になる。これまでは「キーワードを完全一致で当てて、決まった文章を返す」仕組みだった。これからは「知識ベースを読んだAIが、意図を汲んで自然に返す」仕組みに移る。作り手の仕事が、キーワードを増やす作業から、知識ベースを整える作業へとずれていく。
意図認識そのものの考え方は 「ManyChat『AI意図認識』とは?取りこぼしを防ぐ3つの再設定」 記事でも書いた。今日はその先、AIが「自分で答えを組み立てる」段階の話だ。
個人事業主・店舗が今やるべき3つの手順
機能が変わったからといって、明日いきなり全部を入れ替える必要はない。むしろ順番が大事だ。125社を組んできた感覚で言うと、やるべきことは次の3手順に絞られる。
Step 01
知識ベースに「お客さんが一番聞くこと」から入れる
最初の素材は、過去のDMの中にある
Knowledge Libraryは、入れた情報の質がそのまま回答の質になる。いきなり完璧な事典を作ろうとすると手が止まるので、まずは過去のDMやコメントを見返して、実際に何度も聞かれた質問トップ10を書き出すところから始める。料金・営業時間・予約方法・駐車場の有無・キャンセル規定——この5つは業種を問わず必ず聞かれる。ここを正確に入れるだけで、AIの自動回答は一気に実用レベルになる。
Point
曖昧な情報を入れるとAIが堂々と間違える。「分からないことは答えない」も知識ベースの一部だ。
Step 02
AI Behaviorで「口調」と「言ってはいけないこと」を決める
AIの初期提案は、たたき台として使う
AI Behaviorの初期提案は便利だが、そのまま使うとどのお店も似た口調になる。整体院なら落ち着いた敬語、美容室なら少し砕けた親しみ、士業なら硬めに——お店の人格に合わせて口調を上書きする。そして同じくらい大事なのが「ガードレール(言ってはいけないこと)」の設定だ。効果の断定、医療・法律にまたがる助言、値引きの約束など、AIが勝手に踏み込むと事故になる領域を、ここで明確に禁止しておく。
AI Behaviorに設定する3つの軸:
1. 口調(例:丁寧だが堅すぎない。一文を短く)
2. キャラクター(例:お店のスタッフとして親身に)
3. ガードレール(言わせないこと)
- 治療効果・結果の断定をしない
- 料金は知識ベースの記載のみ。値引き提案はしない
- 分からない質問は「担当者に確認します」で止める
Point
ガードレールの有無が、AIを「便利な受付」と「炎上リスク」に分ける。口調より先に禁止事項を固める。
Step 03
Playgroundで意地悪な質問を投げてから公開する
事故は、公開前にしか潰せない
知識ベースと口調を整えたら、必ずPlaygroundで自分が「面倒なお客さん」になりきって質問を投げる。「結局いくら?」「効果ありますか?」「今日の何時が空いてる?」——わざと曖昧に、わざと答えにくく聞く。ここでAIが誤った断定をしたり、知識ベースに無いことを創作したりしたら、その都度Step01・02に戻って直す。この往復を3〜4周してから公開する。テストを省いた自動返信は、24時間働く便利な装置であると同時に、24時間誤情報を配り続ける装置にもなる。
Point
誤回答1件で失う信頼は、自動化で浮いた時間では取り戻せない。検証は手抜きしない。
「無料で全部できる」わけではない、という現実
ここまで読んで「便利そう、すぐ入れたい」と思った人に、先に伝えておきたい現実がある。AI Repliesは今のところInstagramチャンネル限定で、有料プランが前提だ。無料プランのまま全機能を回すことはできない。2026年3月の料金改定で無料枠そのものが狭まった話は 「ManyChat無料プラン実質終了|125社実績者が教える次の選択肢」 記事に書いた通りで、AI機能の登場は、その有料化の判断をさらに後押しする材料になる。
だからこそ、いきなり課金して走り出すより、まず「自分の業種で、AIの自動回答がどこまで売上につながるか」を見極めるほうが先だ。予約が電話中心の業種なら、知識ベースで道案内するだけでも十分。逆に、DMで細かい相談が多い業種なら、AI Replies+知識ベースの設計を作り込む価値が大きい。ツールを入れること自体が目的になってはいけない。今月の問い合わせと売上に効くかどうかで判断する。
SUICS Service — ManyChat構築・再設計
AI時代のManyChat、知識ベースから一緒に組み直します。
解決できる悩み:「キーワード分岐で作り込んだシナリオが古くなった気がする」「Knowledge Libraryに何を入れればいいか分からない」「AIの口調やガードレールを自社に合わせて設定したい」「公開前に誤回答を潰すテストをやってほしい」「有料プランに上げるべきか業種ごとに判断したい」。125社の構築実績をベースに、知識ベース設計→AI口調チューニング→Playground検証までを一気通貫で代行します。
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キーワードを捨てるのではなく、土台を入れ替える
誤解されやすいので最後に書いておく。キーワード分岐が完全に消えるわけではない。クーポン配布やステップ配信のように「確実に同じ動きをさせたい」場面では、今もキーワードのほうが向いている。変わったのは主役の座だ。これまでキーワードが担っていた「お客さんの質問に答える」役割が、知識ベース+AIに移った。だから僕たちは、キーワードを捨てるのではなく、その上に知識ベースという新しい土台を敷く。
5月のあの朝、AIが勝手に作った下書きを見て焦ったのは、自分のスキルが要らなくなると感じたからだった。でも1ヶ月触ってみて、結論は逆だった。AIに何を覚えさせ、何を禁じ、どう試すか——その設計ができる人の価値は、むしろ上がっている。道具が賢くなったぶん、道具に正しい知識を与える役割が重くなった。それだけのことだ。今日紹介した3手順は、その役割を最短でこなすための地図として使ってほしい。