9月16日の夜10時、台所のテーブルで発表文を読みながら、紙に3本の線を引いた
9月16日、火曜の夜10時。片付けの終わった台所のテーブルで、Metaがその日に出した発表文をスマホで読んでいた。「Meta One」という月額プランの案内で、事業者向けの一番安いプランに「Meta Business Agentへのアクセスを増やす」という一文がある。Meta Business Agentは、Instagram・Messenger・WhatsAppのDMにMetaのAIが24時間自動で返事をする、Meta純正の接客機能だ。6月の発表では「始めるのは無料」と書かれていた。その純正機能が、9月の発表文では月額プランの中身として並んでいた。
読み終えてから、手元の裏紙に横線を3本引いた。上から「月25人」「月250人」「会話の中身を誰が持つか」。翌日から打ち合わせをする店主に、この3本の線で説明しようと決めたからだ。「Instagramの純正の自動返信は無料、ManyChatは有料」という前提が、この夏で崩れた。純正の側にも値札が付いた以上、どちらが安いかは店によって変わる。決めるのは、機能の一覧表ではなく、自分の店に月に何人からDMが来ているか、という数字だ。この記事では、Metaの公式ページとManyChatの公式ヘルプを9月21日の朝に開いて確認した値札を並べ、店主が自分の数字を当てはめて判断できる3つの線を書く。
何が起きたか——純正AI接客に付いた値札は2枚。「使った分だけ」と「月額の中に含める」
先に言葉を1つそろえる。「トークン」は、AIが文章を読み書きするときに文字を数える単位だ。日本語なら、だいたい1〜2文字で1トークンと思っておけばよい。AIの料金は、この単位で決まることが多い。
1枚目の値札は、開発者向けの公式ページに書かれている。Metaの「Meta Business Agent Platform」(自社の予約システムや商品一覧とつないで使う、事業者向けの仕組み)は、2026年7月1日に公開され、8月1日から有料になった。料金は、世界共通で100万トークンあたり2ドル。公式ページには「1通の返事はふつう2万〜2.5万トークンを使うので、1通あたりおよそ4〜5セント」と書いてある。「何時に開いていますか」のような簡単な問い合わせは、AIが4通返して合計16〜20セント。「組み立ての3番目で詰まっています」のような込み入った相談は、10通で40〜50セントが目安だと、例まで載っている。請求は月ごとにまとめて来る。さらに10月1日からは、AIではなく人が返した返事(サービスメッセージ)にも、WhatsAppで1通ごとの料金がかかる。
2枚目の値札は、9月15日にMetaが発表した月額プラン「Meta One」だ。個人向けは月2.99ドルから、事業者・クリエイター向けは月14.99ドルから。事業者向けの一番安い「Essential」(月14.99ドル〜)には、認証バッジと一緒に「WhatsAppでのMeta Business Agentへのアクセスを増やす」が入っている。「Advanced」(月49.99ドル〜)は、投稿へのリンク挿入や30日先までのストーリーズ予約に加えて「さらに多くのBusiness Agentの返事」。「Expert」(月149ドル〜)と「Max」(月499ドル〜)は「最も多いBusiness Agentの容量」と書かれている。Metaは、この時点で1,500万件の契約と試用があるとも発表した。
正直に書いておくと、分からないことが2つある。1つは、月額を払わない「無料のまま」で純正AIが月に何通まで返してくれるのか。9月21日の朝の時点で、Metaの公式ページにはその数字がない。もう1つは、日本のアカウントでいつ、どのプランが選べるか。発表文には「プラン・特典・料金・提供時期は地域やアプリやアカウントによって異なる」とある。だからこの記事では、「純正は今も無料で使い放題」とも「有料でしか使えない」とも書かない。確かなのは、純正のAI接客が「使った分だけ払う」と「月額の中に含める」の2本立てで値札を持った、ということだ。
並べる相手のManyChatも、3月に値札が変わっている——月25人・月250人・月2,500人
比べる相手のManyChat(DMの自動返信を、店が自分で設計して動かす道具。SUICSはこの設計と構築を仕事にしている)も、2026年3月2日に料金の形が変わった。9月21日にManyChatの公式ヘルプを開いて確認した数字を書く。ManyChatは「月に何人とDMのやり取りが発生したか」(アクティブコンタクト)で料金が決まる。無料プランは0ドルで月25人まで、動かせる自動返信は4本まで。「Essential」は月17ドル(年払いなら月14ドル)で月250人まで。「Pro」は月39ドル(年払いなら月29ドル)で月2,500人まで、AIが返事を作る機能はこのProから使える。人数を超えた分は、Essentialで1人10セント、Proで1人5セントの追加料金だ。
ここで気づいてほしいのは、純正とManyChatでは「数える単位」が違うことだ。純正の従量課金は「AIが返した通数」で数える。ManyChatは「月にやり取りした人数」で数える。だから、機能の一覧表を横に並べても答えは出ない。自分の店に、月に何人からDMが来て、1人あたり何通のやり取りになるか。この2つの数字を持っている店だけが、どちらが安いかを計算できる。
店主が自分の数字を当てはめる3つの線——月25人、月250人、会話の中身を誰が持つか
9月17日以降の打ち合わせで、実際に店主と一緒に紙に引いた3本の線を書く。上から順に当てはめれば、自分の店がどこにいるかが分かる。
先月、何人とDMをしたか、で決まる。
美容室で実際に数えた8月の数字——「DMは月10人くらい」が、数えたら68人だった
9月17日の打ち合わせで、福岡の美容室のオーナーと一緒に数えた数字を、そのまま書く。オーナーの見立ては「DMは月10人くらい、ほとんど予約の変更」だった。ManyChatの管理画面で8月1日から31日までを開くと、やり取りが発生した相手は68人。内訳は、リールのコメントに反応して自動で送ったクーポン案内が41人、ストーリーズへの返信から始まった会話が15人、直接届いたDMが12人。68人のうち、予約の日付まで進んだ人は21人だった。オーナーが「10人」と感じていたのは、自分で手を動かして返した12人の方だけだったからだ。残りの56人は自動返信が受けていて、オーナーの体感には入っていなかった。
この68人に、線02の計算を当てた。自動返信のやり取りは、クーポンを送って「使う」ボタンを押してもらうまでで平均3〜4通。純正の従量の値札なら、1人16〜20セントで、月68人はおよそ11〜14ドル。ManyChatは無料の25人を超えているので、Essentialの月17ドル(年払いなら14ドル)。この店では、金額はほぼ並ぶ。決め手になったのは線03だった。41人にクーポンを送った履歴と、そのうち誰が予約まで進んだかの目印は、ManyChatの画面に残っている。オーナーは「この41人の名前がどこかに残っていない仕組みには、戻せない」と言った。金額が並んだとき、会話と名簿を手元に持っている方が残る。
1つ、失敗も書いておく。この美容室は今年の春まで、リールのコメント返信を手作業でやっていて、月に40件前後のコメントのうち、DMまでつなげられたのは月5〜6人だった。数えていなかったので、その5〜6人を「DMの全部」だと思っていた。数え始めたのは、自動返信を入れて管理画面に数字が出るようになってからだ。どちらの道具を選ぶにしても、数字が見える場所に会話を置かないと、線を引くための人数そのものが分からない。
最後に:値札が付いたことは、悪い知らせではない。「無料だから」で放置していた会話を、数え直す合図だ
純正のAI接客に値札が付いたと聞いて、「Instagramが有料になった」と受け取る店主もいる。そうではない。投稿もDMも、これまでどおり無料だ。有料になったのは「AIに返事を作らせる」という追加の仕事の分で、しかもその値札は、通数か月額か、店が選べる形で置かれた。値札が付いたことで初めて、「無料だから」と数えずに放置していたDMの会話に、店主が値段を付けて見る理由ができた。
今週やることは1つ。Instagramの受信箱を開いて、先月DMをやり取りした相手を上から数える。25人より少ないか、250人より少ないか、それ以上か。その数字を持ってから、純正の月額かManyChatの月額か、それとも0円で始められる別の道具かを決める。数える前に決めた店は、数えたあとで必ず引き直すことになる。