新幹線でカード明細を開いたら、AIの引き落としが5行並んでいた
今月のはじめ、博多から東京へ向かう新幹線の中で、経費の仕分けをしようとカード明細のアプリを開いた。3列シートの窓側で、テーブルにコーヒーを置いて、月初の30分でやってしまおうという軽い気持ちだった。
スクロールしていくと、AI関連の引き落としが5行、続けて並んでいた。自分の感覚では「うちが使っているAIは、まあ2つくらい」だった。実際は5つ課金していた。しかも、どれも解約しようという気が起きなかった。5つとも、それぞれ違う工程で毎日動いていたからだ。
その数日後、海外の調査データを読んでいて手が止まった。AIを使っている中小企業が持っているツールの数は、平均でおよそ5つ。自分が無意識にたどり着いた数と、ぴったり同じだった。
これは偶然ではないと思っている。1人〜十数人規模の事業で、AIを実務に食い込ませようとすると、構成はだいたい5つに落ち着く。今日はその理由と、SUICSが実際に回している5つの中身、そして5つをバラバラのアプリではなく1本の業務フローとして動かすための3つのルールを書く。
10〜100人規模の導入率が、1年で47%から68%へ
2026年に公開された海外の調査では、従業員10〜100人規模の企業のAI導入率が、1年で47%から68%へ上がったと報告されている。同じ調査の中で、記録上はじめて中小企業のほうが大企業より速いペースで採用しているという整理もされていた。半数以上の組織が、単発の質問応答ではなく、複数の手順をまたぐ業務にAIを組み込んでいる段階に入っている。
この数字は海外事業者を対象にした調査で、日本の個人事業主・中小企業にそのまま当てはまるものではない。ただ、方向としては現場の実感と一致している。SUICSに来る相談も、この1年で「AIって何ができるんですか」から「うちの見積書作成、AIに任せられますか」に完全に変わった。
そして、この記事で本当に見てほしいのは68%という導入率ではない。その隣に小さく書かれている、「AIを使う典型的な中小企業は、平均で約5つのAIツールを組み合わせて運用している」という一文のほうだ。
つまり、勝っている会社は「1本の万能AI」を見つけたのではない。5つを役割で分けて持ち、それをつないだ。ここが、これから始める人と、すでに回している人の差になっている。
「これ1本で全部できるAI」を探し続けると止まる、3つの理由
AI導入の相談で最初に出てくるのが「結局どれがいちばん良いんですか」という問いだ。気持ちはわかる。ただ、この問いのまま比較記事を読み続けると、たいてい半年たっても何も導入されない。理由は3つある。
1つ目。得意分野の分かれ方が、2026年になってはっきりした。今年7月の時点で、主要な3サービスは進む方向を分けている。数字を扱ってグラフまで出す作業、Webページや小さなツールを作る作業、大量の情報源を調べて構造化する作業。この3つは、それぞれ別のサービスが明確に速い。1本に絞るということは、残り2つを遅いまま我慢するという意味になる。
2つ目。1本に寄せるほど、乗り換えのコストが跳ね上がる。業務の全部を1つのサービスの中に作り込むと、そのサービスの価格改定や仕様変更が起きた瞬間、事業全体が止まる。5つに分けて持っていれば、1つ入れ替えても業務は回り続ける。AIの世代交代が半年単位で起きる今、これは保険というより設計の前提だ。
3つ目。問題は値段ではなく「入口の数」だから。月額を1つに絞りたい気持ちの正体は、たいてい費用ではなく管理の面倒くささだ。だがこれは、ツールを減らすのではなく、出口を1つにまとめることで解決する。この話は後半のルール02で書く。
SUICSが実際に回している5つの構成、全部公開する
新幹線の明細に並んでいた5行が、実際にどう分担しているか。役割の名前をつけて並べるとこうなる。金額は2026年7月時点の目安で、為替とプランによって変わる。
並べてみると分かるのは、ツールの名前で分けていないことだ。分けているのは工程で、「考える/作る/調べる/記録する/届ける」の5つ。これは事業の種類が変わっても、ほぼそのまま使える骨格だと考えている。飲食店なら「作る」がメニュー表とチラシになり、士業なら「調べる」が判例と制度改正になるだけで、5工程の並びは変わらない。
もうひとつ大事なのは、5つのうち2つ(NotionとSlack、そしてManyChat)はAIそのものではないという点だ。AIスタックの半分は、AIの出力を置く場所と、人に届ける経路でできている。ここを用意しないままAIだけ増やすと、生成物がチャット画面の中に溜まって、誰も見ない状態になる。
5つを1本の業務フローにする、3つのルール
ここからが本題になる。5つ契約しただけでは、月額が5倍になっただけの状態で終わる。バラバラの5つを1本の流れにするために、SUICSが自社と支援先で守っているルールを3つ書く。
「万能な1本」ではなく
工程ごとに分担された5つと、出口1つ。
つまずくのは、たいてい「6つ目」を入れた瞬間
支援先で崩れるパターンには共通点がある。5つで回り始めた翌月あたりに、話題の新サービスを6つ目として入れて、そこから使わないツールが増えていく。増えすぎのサインは3つある。
1つ目は、同じ工程に2つのツールが乗っているとき。原稿を書くAIが2つある状態は、便利ではなく、毎回どちらで書くか迷う時間が発生している状態だ。2つ目は、先月1回も開かなかった画面があるとき。これは解約の判断で迷う必要がない。3つ目は、誰かに使い方を説明できないとき。自分でも説明できないツールが、チームに定着することはない。
逆に言えば、5つが全部それぞれの工程で毎週動いていて、結果が1つの画面に集まっているなら、そのスタックは完成している。あとは中身の1つを、より良いものに入れ替えていくだけの話になる。AI導入でつまずく典型パターンは 「AI導入で失敗する中小企業の3つの共通点」 の記事にもまとめている。
そして、この5つの構成を最初から自力で組む必要はない。実際に自分が組んだ具体的な中身は 「月2000円で雇うAI秘書の5機能と作り方」 に、対話型AIの使い分けの判断基準は 「ChatGPT・Claude・Gemini使い分けルール」 に書いた。まず1工程から動かしてみて、詰まったら次を足す。この順番を守るだけで、半年後の状態がかなり変わる。
「うちの5つ」を設計するところから相談したい方へ
導入率68%という数字は、裏を返せば「同じ規模の同業3社のうち2社は、すでに何かしら動かしている」という意味になる。ただ、焦って高額なシステムを1本入れるのは、この記事の結論と逆方向だ。必要なのは、自社の工程を5つに割って、いちばん重い1つから順に埋めていく設計のほうになる。
SUICSのAI/DX診断では、まず業務の棚卸しをして「人がやるべき作業」と「AIに渡せる作業」を工程単位で仕分けする。そのうえで、御社の事業に合った5つの構成を組み、Claude Code等を使って実装まで通しで行う。非エンジニアの1人事業として実際に運用している構成なので、机上の提案ではなく、明日から動く形でお渡しできる。