Notes / AI & DX

AIは、万能な1本を
探す競争ではなくなった

2026.07.21

新幹線でカード明細を開いたら、AIの引き落としが5行並んでいた

今月のはじめ、博多から東京へ向かう新幹線の中で、経費の仕分けをしようとカード明細のアプリを開いた。3列シートの窓側で、テーブルにコーヒーを置いて、月初の30分でやってしまおうという軽い気持ちだった。

スクロールしていくと、AI関連の引き落としが5行、続けて並んでいた。自分の感覚では「うちが使っているAIは、まあ2つくらい」だった。実際は5つ課金していた。しかも、どれも解約しようという気が起きなかった。5つとも、それぞれ違う工程で毎日動いていたからだ。

その数日後、海外の調査データを読んでいて手が止まった。AIを使っている中小企業が持っているツールの数は、平均でおよそ5つ。自分が無意識にたどり着いた数と、ぴったり同じだった。

これは偶然ではないと思っている。1人〜十数人規模の事業で、AIを実務に食い込ませようとすると、構成はだいたい5つに落ち着く。今日はその理由と、SUICSが実際に回している5つの中身、そして5つをバラバラのアプリではなく1本の業務フローとして動かすための3つのルールを書く。

10〜100人規模の導入率が、1年で47%から68%へ

2026年に公開された海外の調査では、従業員10〜100人規模の企業のAI導入率が、1年で47%から68%へ上がったと報告されている。同じ調査の中で、記録上はじめて中小企業のほうが大企業より速いペースで採用しているという整理もされていた。半数以上の組織が、単発の質問応答ではなく、複数の手順をまたぐ業務にAIを組み込んでいる段階に入っている。

この数字は海外事業者を対象にした調査で、日本の個人事業主・中小企業にそのまま当てはまるものではない。ただ、方向としては現場の実感と一致している。SUICSに来る相談も、この1年で「AIって何ができるんですか」から「うちの見積書作成、AIに任せられますか」に完全に変わった。

そして、この記事で本当に見てほしいのは68%という導入率ではない。その隣に小さく書かれている、「AIを使う典型的な中小企業は、平均で約5つのAIツールを組み合わせて運用している」という一文のほうだ。

つまり、勝っている会社は「1本の万能AI」を見つけたのではない。5つを役割で分けて持ち、それをつないだ。ここが、これから始める人と、すでに回している人の差になっている。

「これ1本で全部できるAI」を探し続けると止まる、3つの理由

AI導入の相談で最初に出てくるのが「結局どれがいちばん良いんですか」という問いだ。気持ちはわかる。ただ、この問いのまま比較記事を読み続けると、たいてい半年たっても何も導入されない。理由は3つある。

1つ目。得意分野の分かれ方が、2026年になってはっきりした。今年7月の時点で、主要な3サービスは進む方向を分けている。数字を扱ってグラフまで出す作業、Webページや小さなツールを作る作業、大量の情報源を調べて構造化する作業。この3つは、それぞれ別のサービスが明確に速い。1本に絞るということは、残り2つを遅いまま我慢するという意味になる。

2つ目。1本に寄せるほど、乗り換えのコストが跳ね上がる。業務の全部を1つのサービスの中に作り込むと、そのサービスの価格改定や仕様変更が起きた瞬間、事業全体が止まる。5つに分けて持っていれば、1つ入れ替えても業務は回り続ける。AIの世代交代が半年単位で起きる今、これは保険というより設計の前提だ。

3つ目。問題は値段ではなく「入口の数」だから。月額を1つに絞りたい気持ちの正体は、たいてい費用ではなく管理の面倒くささだ。だがこれは、ツールを減らすのではなく、出口を1つにまとめることで解決する。この話は後半のルール02で書く。

SUICSが実際に回している5つの構成、全部公開する

新幹線の明細に並んでいた5行が、実際にどう分担しているか。役割の名前をつけて並べるとこうなる。金額は2026年7月時点の目安で、為替とプランによって変わる。

役割
担当ツール
月額の目安
任せている工程
考える
Claude
月20ドル〜
構成設計・原稿・提案書の骨組み
作る
Claude Code / Codex CLI
上記プラン内+従量
LP試作・社内ツール・自動化スクリプト
調べる
Gemini
無料〜月数千円
競合調査・一次情報の収集と要約
記録する
Notion + Slack
無料プランから可
出力の保存先・通知の受け皿
届ける
ManyChat
無料プランあり
Instagramのコメント→自動DM→リスト化
合計(2026年7月時点の目安)
月1万円台

並べてみると分かるのは、ツールの名前で分けていないことだ。分けているのは工程で、「考える/作る/調べる/記録する/届ける」の5つ。これは事業の種類が変わっても、ほぼそのまま使える骨格だと考えている。飲食店なら「作る」がメニュー表とチラシになり、士業なら「調べる」が判例と制度改正になるだけで、5工程の並びは変わらない。

もうひとつ大事なのは、5つのうち2つ(NotionとSlack、そしてManyChat)はAIそのものではないという点だ。AIスタックの半分は、AIの出力を置く場所と、人に届ける経路でできている。ここを用意しないままAIだけ増やすと、生成物がチャット画面の中に溜まって、誰も見ない状態になる。

5つを1本の業務フローにする、3つのルール

ここからが本題になる。5つ契約しただけでは、月額が5倍になっただけの状態で終わる。バラバラの5つを1本の流れにするために、SUICSが自社と支援先で守っているルールを3つ書く。

Rule 01
ツール名ではなく「工程名」で割り当てる
最初の30分でやること/紙とペンで足りる
導入の初日にやるのは、比較記事を読むことではなく、自分の1週間を工程に割ることだ。月曜から日曜までにやった作業を全部書き出し、「考える・作る・調べる・記録する・届ける」のどれかに分類する。分類できたら、いちばん時間を食っている工程を1つだけ選ぶ。AIを入れるのは、その工程だけでいい。
入力
1週間の作業リスト
処理
5工程に分類
出力
最優先の1工程
Point
「どのAIが良いか」ではなく「どの工程が重いか」から入ると、比較検討で止まらなくなる
Rule 02
出口を1つに決めて、そこに全部集める
アプリを5つ開かなくていい状態を作る
5つのツールを毎朝5回開くなら、それは自動化ではなく作業が増えただけになる。SUICSでは、どのツールが動いた結果もSlackの決まったチャンネルに流れるようにしている。朝いちばんに開くのはSlack1つだけ。前夜に生成された投稿の下書きも、集約されたニュースも、クライアントアカウントの変化も、同じ画面に並ぶ。この形にした瞬間、「管理が面倒だからツールを減らしたい」という発想そのものが消えた。
出口
Slack 1画面
保存
Notion 1DB
確認
朝の5分
Point
ツールの数を減らすのではなく、開く画面の数を1つに減らす
Rule 03
増やすのは「詰まった工程」が出てきたときだけ
増設の判断基準/月1回の見直しで足りる
新しいAIサービスは毎週のように出る。全部試していたら本業が消える。SUICSでは、追加を検討するのは「既存の5つでは処理できない詰まりが、2週間以上続いた工程」が出たときだけと決めている。逆に、詰まりが実際に起きたときは即日入れる。判断を早くするために、基準をあらかじめ1行で決めておくのが要点になる。
条件
詰まり2週間
上限
1工程1ツール
見直し
月1回
Point
話題になったから入れる、をやめると、スタックは自然に5つ前後で安定する
強い会社が持っているのは
「万能な1本」ではなく
工程ごとに分担された5つと、出口1つ。
AI Stack Map for Small Business
中小企業のAIスタック、5工程の役割分担図
5 ROLES / 1 EXIT 01 考える / 構成・設計・提案の骨組み 対話型AI(Claude など) 02 作る / LP試作・社内ツール・自動化 コーディング支援AI(Claude Code / Codex CLI) 03 調べる / 競合調査・一次情報の収集 リサーチ型AI(Gemini など) 04 記録する / 出力の保存先・通知の受け皿 Notion + Slack(AIではない土台) 05 届ける / コメント→自動DM→リスト化 配信・DM自動化(ManyChat など) 出口はひとつ / 朝ひらく画面は1枚だけ 5つの結果が同じチャンネルに並ぶ状態を先に作る

つまずくのは、たいてい「6つ目」を入れた瞬間

支援先で崩れるパターンには共通点がある。5つで回り始めた翌月あたりに、話題の新サービスを6つ目として入れて、そこから使わないツールが増えていく。増えすぎのサインは3つある。

1つ目は、同じ工程に2つのツールが乗っているとき。原稿を書くAIが2つある状態は、便利ではなく、毎回どちらで書くか迷う時間が発生している状態だ。2つ目は、先月1回も開かなかった画面があるとき。これは解約の判断で迷う必要がない。3つ目は、誰かに使い方を説明できないとき。自分でも説明できないツールが、チームに定着することはない。

逆に言えば、5つが全部それぞれの工程で毎週動いていて、結果が1つの画面に集まっているなら、そのスタックは完成している。あとは中身の1つを、より良いものに入れ替えていくだけの話になる。AI導入でつまずく典型パターンは 「AI導入で失敗する中小企業の3つの共通点」 の記事にもまとめている。

そして、この5つの構成を最初から自力で組む必要はない。実際に自分が組んだ具体的な中身は 「月2000円で雇うAI秘書の5機能と作り方」 に、対話型AIの使い分けの判断基準は 「ChatGPT・Claude・Gemini使い分けルール」 に書いた。まず1工程から動かしてみて、詰まったら次を足す。この順番を守るだけで、半年後の状態がかなり変わる。

「うちの5つ」を設計するところから相談したい方へ

導入率68%という数字は、裏を返せば「同じ規模の同業3社のうち2社は、すでに何かしら動かしている」という意味になる。ただ、焦って高額なシステムを1本入れるのは、この記事の結論と逆方向だ。必要なのは、自社の工程を5つに割って、いちばん重い1つから順に埋めていく設計のほうになる。

SUICSのAI/DX診断では、まず業務の棚卸しをして「人がやるべき作業」と「AIに渡せる作業」を工程単位で仕分けする。そのうえで、御社の事業に合った5つの構成を組み、Claude Code等を使って実装まで通しで行う。非エンジニアの1人事業として実際に運用している構成なので、机上の提案ではなく、明日から動く形でお渡しできる。

SUICS Service — AI / DX 導入支援
御社の「AIツール5つの構成」、工程の割り出しから実装まで。
解決できる悩み:「AIを入れたいが、どれから手をつけるか決められない」「サービスを比較しているうちに半年たってしまった」「契約はしたが、社内で誰も使っていない」「ツールが増えすぎて、どれが何のためか分からなくなった」「生成した内容が個人のチャット画面に溜まったままになっている」「1本の高額システムではなく、小さく組み合わせて始めたい」。業務棚卸し → 5工程への割り当て → ツール構成の設計 → 実装 → 定着支援まで通しで支援します。
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