9月1日の朝、Claudeの「Topics」一覧に春の期間限定メニューが残っていた
9月1日、月曜の朝。コーヒーを淹れてから、いつもの習慣でClaudeを開いた。その日はひとつだけ、普段やらないことをした。設定画面の「Memory」を開いて、Claudeが自分について覚えている項目の一覧、「Topics」を上から順に読んだのだ。8月25日にチャットとCowork(Claudeの作業代行機能)の記憶がひとつに統合されたと知って、何が引き継がれているのか自分の目で確かめたくなった。
並んでいた項目の数は40を超えていた。会社の業種、主な顧客層、文章の好み、進行中の案件名。ここまでは頼もしい。問題はその先だった。一緒にInstagramを見ている佐賀のカフェについて、春に終わったはずの期間限定メニューの条件が「現在の目玉」として残っていた。別の行には、5月に検討して結局やめた方針が、決定事項のような顔で書かれていた。さらに下には、あるお客さんの下の名前と、その人が話した家庭の事情が、そのまま1行になって入っていた。
Claudeは間違えていない。自分がチャットで話したことを、忠実に覚えていただけだ。覚えたことがそのままCoworkの作業にも流れ込む以上、この一覧の中身は、AIが出してくる提案の前提そのものになる。何を覚えさせるかを決めていない人の記憶は、古い価格と終わったキャンペーンと思いつきで、静かにズレていく。今日はこの統合で何が変わったのかを整理したうえで、記憶に入れていい情報と入れてはいけない情報の、3つの線引きを書いていく。9月9日という期限付きの作業がひとつ含まれるので、先に読んでおく価値がある。
8月25日に何が変わったか——チャットで話したことが、そのまま作業の前提になる
まず事実を、Anthropicの公式ヘルプに書かれている範囲でそろえる。2026年8月25日、Claudeのメモリ(記憶)機能がチャットとCoworkで統合された。それまでは、チャットで「うちは佐賀の整体院で、客層は40代女性が中心」と伝えても、Coworkに作業を頼むときはもう一度同じ説明が必要だった。統合後は、チャットで伝えた内容がCoworkの作業にそのまま使われ、Coworkの作業中に出てきた情報がチャット側にも戻ってくる。ひとつ注意があって、対象になるのはクラウドで動くCoworkだけで、自分のパソコンの中で動かすローカル版のCoworkは記憶を使わない。
記憶のされ方も変わった。以前は会話が終わったあとにまとめて要約する方式だったが、今は会話の途中で「項目」として保存されていく。締切が動いたと話せば、次の会話はもう新しい締切を知っている。「これを覚えて」と言えば直接保存もできる。保存された項目は設定画面の「Topics」に並び、ひとつずつ開いて編集も削除もできる。会話の中で「これは忘れて」と言っても反映される。
既定の状態はプランで違う。Free・Pro・Maxは最初からオン、TeamとEnterpriseは最初はオフで、組織のオーナーが有効にする必要がある。健康、信条、政治といったセンシティブな話題は既定では保存されず、本人が設定で許可した場合だけ保存対象になる。政府発行のID番号、金融口座番号、犯罪歴、在留資格は、頼んでも保存されない仕様になっている。そしてもうひとつ、以前の記憶方式を使っていた人は、9月9日までなら設定画面から旧メモリを書き出せる。移行で抜け落ちたと感じる項目があれば、書き出した内容を貼り直せばいい。期限を過ぎると書き出しの選択肢は消える。
覚えさせる価値は大きい——「最初の30分」が消える
ここまで読むと、記憶を切っておいたほうが安全に思えるかもしれない。先に、切らないほうがいい理由を書く。ManyChat構築で125社と向き合ってきて、どの案件でも最初の30分は同じことに使っていた。店の業種、立地、客層、売りたいメニュー、やりたくないこと、避けたい言い回し。人に対する説明であれば1回で済むが、AIに対しては新しい会話を開くたびにゼロからだった。プロジェクト機能である程度は解決していたものの、Coworkに作業を渡す段になると、また説明し直していた。
統合後は、この30分がなくなる。「先週話した佐賀のカフェの件で、9月の投稿案を10本」と頼むだけで、店名も客層も文体の好みもそろった状態で作業が始まる。「Claudeに作業を録画して覚えさせる」 の記事で書いた「背中を見せて教える」やり方と組み合わせると、作業の手順と店の事情の両方を持ったAI社員が手元にいる状態に近づく。個人事業主ほど、この恩恵は大きい。説明する相手が自分しかいないからだ。
だから答えは「切る」ではなく、「入れるものを決める」になる。冒頭のTopics一覧で見つけた3つの残骸——終わったキャンペーン、やめた方針、お客さんの家庭の事情——は、そのまま3本の線に対応している。
記憶に入れていい情報、入れてはいけない情報——3つの線引き
線引きの基準はひとつだけで、「3か月後にも正しいか、そして自分のものか」だ。これを3つに分けると、次のようになる。
何を覚えさせるかより、
何を覚えさせないかだ。
9月9日までにやること——書き出し、掃除、そして1枚のプロフィール
期限のあるものから書く。以前の記憶方式を使っていた人は、設定画面の「Memory」に旧メモリを書き出す選択肢が9月9日まで表示される。移行で何かが抜けた気がするなら、まず書き出してテキストとして手元に残す。抜けていた部分だけをClaudeに貼り直せば、記憶に戻せる。書き出したファイルにお客さんの名前が入っていたら、貼り直す前にその行を消す。旧方式を使っていなかった人、あるいは設定画面に「Memory」の項目がそのまま見えている人は、この手順は不要だ。
次に、Topics一覧の掃除をする。上から順に読んで、3本の線の右側にあるもの——終わったキャンペーン、価格、お客さんの名前、やめた方針——を消していく。冒頭の自分のケースでは、40数項目のうち消したのは9つだった。所要時間は15分。消したあとに「価格と期間限定の情報はプロジェクト内の最新ファイルを正とする」「お客さんの個人情報は記憶しない」の2行を、そのまま「覚えて」と伝えて保存した。これで、次に同じ種類の話をしても、Claudeが自分で線を守ろうとする。
最後に、記憶に入れていい情報だけをまとめた「店のプロフィール」を1枚作って渡す。Line 01からLine 03の左側だけで構成する。形は次のような箇条書きで十分だ。
TeamプランやEnterpriseプランで使っている場合は、そもそも記憶がオフになっているので、オーナーが組織設定で有効にするところから始まる。逆にスタッフに使わせたくない情報がある会社は、オフのまま運用するという判断もある。オフからオンに切り替えるときは、上の3本の線をそのまま社内ルールにして配ると、ひとりひとりの判断に任せずに済む。
この手順は、「Claudeを業務に組み込む3ステップ」 で書いた「業務を言語化してAIに渡す」の、いちばん小さい実践でもある。店のプロフィールを1枚書く行為そのものが、自分の店を言葉にする作業になる。
最後に:忘れさせる設計がある人だけが、覚えさせる恩恵を受け取れる
9月1日の朝に見つけた3つの残骸は、どれもClaudeの落ち度ではなかった。自分が話したことを、自分が整理しないまま、AIが誠実に覚えていただけだ。人の秘書なら「あのメニュー、春に終わりましたよね」と察してくれる場面で、AIは言われるまで覚え続ける。その差を埋めるのが、今日書いた3本の線だ。
チャットとCoworkの記憶がひとつになったことで、AIに任せられる作業の範囲は確実に広がった。ただ、覚える範囲が広がるほど、忘れさせる設計の有無で結果が分かれる。9月9日の期限は旧方式を使っていた人だけのものだが、Topicsの掃除と店のプロフィール1枚は、Claudeを使っている全員に関係がある。この週末、コーヒーを片手に15分だけ、自分のTopicsを上から読んでみてほしい。そこに並んでいるのが、今のあなたの店をAIがどう理解しているか、そのものだ。