カフェのカウンターで、伸びていくキューを黙って見ていた
6月のある平日の午後、佐賀駅近くのカフェでアイスコーヒーを飲みながら、ノートパソコンでクライアントのManyChat管理画面を開いていた。その日は、フォロワー4万5千人のアカウントが新作リールに合わせて「コメントした人に限定特典DMを配る」キャンペーンを走らせる日だった。
リールが伸びはじめて2時間で、コメントは350件を超えた。普段なら気持ちのいい光景だ。ところがダッシュボードの送信ログを見ると、最初の200人にはDMが即座に届いているのに、201人目から先が「送信待ち」のまま列をなしていた。キューの数字が、コーヒーを飲み終えるあいだもじわじわ伸びていく。
クライアントから「特典が来ないって何件か言われてるんですけど」とメッセージが入ったのは、その30分後だった。アカウントは壊れていない。設定ミスでもない。これは、2026年にMetaがInstagram APIにかけた「200通/時」という新しい天井に、まともにぶつかった瞬間だった。
今日はこの話を書く。なぜ自動DMが途中で詰まるのか、それは誰のせいなのか、そして125社を構築してきた立場から見えた「詰まらせない3つの配布設計」を、順番に共有したい。
何が変わったか:API上限が5,000→200へ、96%の削減
まず事実関係から整理する。2026年、InstagramはAPIの呼び出し上限を、従来の1時間あたり5,000回から200回へと96%削減した。これはManyChat側の不具合や仕様変更ではなく、Meta(Instagramの運営元)が決めたプラットフォーム全体のルールだ。だからManyChatを使っていても、競合の自動化ツールを使っていても、影響からは逃れられない。
具体的には、1つのInstagramアカウントから自動で送れるDMが、おおむね1時間あたり200通が上限になった。ここで多くの人が誤解するポイントがある。「ツールを2つ繋げば400通いけるのでは」という発想だ。残念ながらそうはならない。上限はアカウント単位でかかるので、同じアカウントに複数ツールを接続しても、合算で200通の枠を分け合うだけだ。
では201通目以降はどうなるのか。送れずに消えてしまうのか——というと、そこはツール側が賢く処理してくれる。ManyChatの場合は超過分を破棄せず、自動でキュー(順番待ちの列)に入れ、次の時間枠が来たら順次送り出す。冒頭のキャンペーンで「201人目から送信待ち」になっていたのは、まさにこの仕組みが働いていた証拠だった。
数字だけ見ると「厳しくなった」と感じるかもしれない。けれど見方を変えれば、これはスパム的な大量DMを抑え、プラットフォームの健全性を守るための調整でもある。問題は制限そのものではなく、制限を知らないまま「即レス前提」の配布を組んでいる運用のほうにある。
なぜ「DMが来ない=壊れている」とクレームになるのか
冒頭のケースをもう一度、応募者の体感で追ってみる。フォロワーから見れば、リールのコメント欄には「コメントした方に特典をプレゼント」と書いてある。期待値は「コメントしたらすぐ届く」だ。最初の200人はその通り、数十秒でDMを受け取る。ここまでは完璧だ。
問題は201人目から先だ。200通/時の枠を使い切ると、残りの150人は次の1時間枠を待つことになる。つまり後半の応募者は、特典DMが届くまで60分から90分待たされる。本人にはキューの存在など見えないから、「コメントしたのに何も来ない。これ壊れてるんじゃないか」と感じる。そして一番熱が高かったはずの瞬間に、その熱が冷めていく。
これは集客導線の世界では致命的だ。特典DMの本当の目的は、特典そのものを渡すことではなく、「コメント→DM→リスト化→次の一手」という動線にお客さんを乗せることにある。最初の接触で「動かないサービス」という印象を持たれると、その後どんなに良いオファーを出しても届かない。SUICSが掲げてきた「動線の目詰まり」が、いままさにAPIの天井という形で現れている。
「即レス前提」で組まれた配布設計のほうだ。
詰まらせない3つの設計
ここからが本題。200通/時を前提にしても、お客さんの体験を落とさずに動線を回す方法はある。125社の構築で実際に効いた3つの設計を、順に紹介する。
制限の時代こそ、設計力が差になる
冒頭のクライアントは、翌週から配布設計を組み替えた。単発の一斉配布をやめ、特典導線をストーリーズと固定ハイライトに分散。コメント直後の受付確認を一段挟むようにした。次の月のキャンペーンでは「届かない」という声はゼロになり、リスト化された人数はむしろ増えた。詰まりを取り除いただけで、動線が静かに、確実に回りはじめた。
ツールが便利になるほど、誰でも同じことができるようになる。そこで差がつくのは、機能の使い方ではなく「制約を前提にした設計力」だ。200通/時は不便な制限に見えて、実は「速さで殴る運用」と「設計で積み上げる運用」をふるいにかける線引きでもある。後者を選べる人だけが、これからのInstagram集客で勝ち残っていく。
もうひとつ、見落としやすい点を補っておく。200通/時の枠は、特典DMだけでなく、通常の自動返信や「フォロー御礼DM」など、そのアカウントから出る自動メッセージすべてで共有される。つまりキャンペーンを走らせている裏側で日常の自動返信も同じ枠を使うため、平時の送信量が多いアカウントほど、キャンペーン時のキューが伸びやすい。自分のアカウントが普段どれくらい自動DMを出しているかを一度数えておくと、キャンペーン設計の精度が一段上がる。制限は敵ではなく、運用を見直すための健康診断だと捉えるといい。
関連する設計の考え方は、拡散指標が変わった話をまとめた 「Instagram拡散指標が『DM送信数』へ」 と、キーワード設定を見直す 「ManyChat『AI意図認識』とは?」 も合わせて読んでほしい。
「うちのDM導線、200通の壁で詰まってないか」と思ったら
すでにManyChatを運用している事業者ほど、この制限の影響を受けやすい。とくにキャンペーン型で一気に配る運用をしている店舗・個人事業主は、いちど自分の配布設計が「即レス前提」になっていないか確認したほうがいい。詰まりは管理画面のキューを見ないと気づけないことが多く、知らないあいだに後半リードを取りこぼしている。
SUICSのManyChat構築では、こうした200通/時を前提にした配布設計を、業種と応募の波に合わせて組む。一斉配布をやめて常時受付型へ寄せる導線、受付確認を挟む二段返信、リスト化を主役に置いたファネル——どれも125社の現場で検証してきた形だ。今の導線を一度見てもらいたいという段階でも構わない。