土曜の朝、クライアントの「未返信ログ」に並んでいた取りこぼし
6月のはじめ、佐賀のいつものカフェで、あるクライアント店舗のManyChat管理画面を一件ずつ遡っていた。新しく組んだ予約導線が、ちゃんと回っているかを月初に点検するのが習慣になっている。コーヒーが冷める前に、ある列でスクロールの指が止まった。「自動フローが起動しなかったメッセージ」の履歴だった。
そこには、お客さんからのこんなDMが並んでいた。「今度の土曜、あいてますか?」「子ども連れでも大丈夫そう?」「だいたいおいくらくらいになります?」。どれも予約や問い合わせに直結する、熱量の高い一言だ。なのに自動返信は、一件も反応していなかった。理由はすぐ分かった。フローの起動キーワードを「予約」「料金」「営業時間」で設定していたからだ。お客さんは、こちらが用意した単語をひとつも使ってくれていなかった。
これが、ManyChatを入れた店舗が最初に踏む、いちばん静かな失敗だ。フォロワーは増えた。DMも来ている。でも、お客さんが思いもよらない言い回しで送ってくるから、キーワード完全一致の自動返信がすり抜けて、熱いリードが「未返信」のまま夜を越えていく。取りこぼしは、画面の目立たない場所で、毎日静かに起きている。
その取りこぼしの構造を、根本から変えるアップデートが2026年のManyChatに入った。「AI意図認識(Intent Recognition)」だ。今日は、これが何を変えるのか、そして今ManyChatを使っている人が今日のうちにやるべき3つの再設定を、125社を組んできた立場から書いておきたい。
「AI意図認識」とは ─ キーワード完全一致からの卒業
これまでのManyChatの自動フローは、基本的に「言葉のマッチング」で動いていた。あらかじめ「予約」という単語を登録しておくと、お客さんのDMに「予約」という文字が含まれたときだけフローが起動する。逆に言えば、登録した単語と1文字でもズレれば、AIは沈黙する。「予約できますか」は拾えても、「土曜あいてます?」は素通り。これが従来の限界だった。
2026年に実装された意図認識は、ここを「言葉」ではなく「意味」で見るようになった。AIがメッセージ全体の文脈を読んで、「この人は予約をしたいんだな」「これは料金を聞いているな」と意図そのものを判定し、表現が違っても適切なフローへ自動で振り分ける。お客さんが「土曜あいてます?」と書いても、AIが「これは予約意図」と理解して、予約フローを起動する。登録キーワードを無限に書き足す消耗戦から、ようやく解放されるということだ。
地方の店舗で考えると、この差は想像以上に大きい。佐賀の整体院に「腰、ヤバくて」「ぎっくりっぽいです」とDMが来ても、登録キーワードが「予約」だけなら従来は無反応だった。意図認識は、この崩れた話し言葉から「緊急で予約したい人だ」と読み取って動く。お客さんは普段の言葉でしゃべっているだけなのに、こちらが用意した単語を覚えてくれる前提のほうが、そもそも無理があった。その無理を、AIがようやく肩代わりしてくれるようになった、というのが今回の本質だ。
あわせて、Instagram・Facebook・WhatsApp・TikTok・SMSを1つのダッシュボードでまとめて管理するマルチプラットフォーム対応も広がった。複数のチャネルでお客さんと接点を持つ店舗にとっては、窓口がバラバラだった状態が一本化に向かう。意図認識とこの一元管理は、別々の機能に見えて「お客さんがどこから、どんな言葉で来ても取りこぼさない」という同じゴールを向いている。
逆説 ─ AIが賢くなるほど、設計力の差はむしろ開く
ここで多くの人が、こう考える。「AIが意図を読んでくれるなら、もう自分で設定すればいい。構築を頼む意味は薄れたのでは」。気持ちは分かる。でも現場を125社見てきた実感は、まったく逆だ。意図認識が入ったことで、構築の価値はむしろ上がった。
理由はシンプルだ。意図認識が解決したのは「お客さんの言葉を拾う」という入口の問題であって、「拾った意図を、どのフローに、どの順番で流すか」という設計の問題は、何ひとつ解決していない。むしろAIが入口を広げたぶん、入ってくる相談の種類が増え、振り分けの設計はこれまで以上に複雑になる。「予約」と「キャンセル」と「クレーム」は、どれも近い言葉で来るのに、流すべき先はまったく違う。ここを雑に組むと、AIが賢いせいで「間違ったフローに自信満々で振り分ける」という、前より厄介な事故が起きる。
料理に例えると分かりやすい。意図認識は「どんな食材が届いても受け取ってくれる優秀な仕入れ係」を雇えたようなものだ。でも、その食材をどう調理して、どの順番でお客さんに出すかを決めるのは、依然として料理人の仕事だ。仕入れが良くなったからこそ、レシピの巧拙がそのまま味の差になる。AIが平らにしたのは「単語を登録する作業」であって、「お客さんの心を動かす導線を設計する技術」ではない。後者は、むしろ希少価値を増している。
それをどの導線に流すかは、
まだ人の設計が決める。
今ManyChatを使っている人が、今日やるべき3つの再設定
意図認識は「設定すれば終わり」の魔法ではない。むしろ既存の設定を一度見直さないと、せっかくの新機能が宝の持ち腐れになる。今日のうちに手を動かせる3つを、優先順にまとめた。
意図認識は「武器」、使いこなすのは設計
意図認識の登場で、ManyChatは確実に賢くなった。お客さんの言葉を待ち構える窓口は、これまでより広く、優しくなった。だが、入口が広がったぶん、その先の交通整理は誰かがやらないといけない。賢い仕入れ係を雇えても、メニューと調理の腕がなければ、いい食材が宝の持ち腐れになるのと同じだ。
SUICSがManyChatを125社で組んできて分かったのは、成果の差はいつも「機能」ではなく「設計」で生まれるということだ。同じ意図認識を使っても、未返信ログを回収した店と、しない店。意図の境界を引いた店と、AI任せの店。逃げ道を用意した店と、沈黙したままの店。半年後の問い合わせ件数は、はっきり分かれる。新機能が出たときこそ、それを活かす土台を組み直すチャンスだ。
料金改定で無料プランの選び方が変わった話は 「ManyChat無料プラン実質終了、次の選択肢」、自動返信が冷たく見えてしまう設定の直し方は 「DM自動返信が冷たく見える3つの設定」 も合わせて読むと、設計の全体像が掴める。
「自分のManyChat、この機能を活かせているか不安」と思ったら
今日の3つの再設定は、今ManyChatを使っている人なら自分でも手をつけられる。一方で、意図の境界をどこで引くか、どのフローに何を流すかは、業種とお客さんの来方によって最適解がまるで違う。整体院と飲食店とアパレルでは、来るDMの言葉も、流すべき導線もまったく別物になる。
SUICSのManyChat構築では、まず御社に来ているDMの「生の言葉」を棚卸しして、意図ごとの行き先と逃げ道までを設計してから組む。新機能を載せる前に、土台が取りこぼさない形になっているかを点検する。すでに自分で入れている人の「設定見直し」だけの相談も受けている。アカウント警告につながりやすいNG設定を避ける勘所は 「ManyChatでアカウント警告される3つのNG設定」 も参照してほしい。