7月最後の水曜、請求書を作りながら画面録画を回してみた
7月最後の水曜の朝、月末の請求書をまとめて作る日だった。取引先ごとにテンプレを開き、金額を差し替え、日付を直し、PDFに書き出してメール本文を整える——毎月かならず来る、地味だが手を抜けない作業だ。その日はふと思い立って、いつも通り作業する手元を画面録画で回してみた。ついでに「ここは取引先名を入れて」「ここは前月と同じ書式で」と、声に出して手順を説明しながら進めた。
録画が終わって気づいた。プロンプトを一文字も書いていない。いつもの作業を、いつも通りやって見せただけだ。それでもClaudeは、そのやり方を「請求書作成」という一つの手順として覚え、翌月からは同じ流れを再現できる状態になっていた。指示を言葉で組み立てるのではなく、背中を見せて教える。これが今、Claudeのデスクトップ業務モードに入った「作業を録画して覚えさせる」機能の正体だ。
この記事では、この機能が何を変えるのかを整理したうえで、いちばん大事な「では、最初に何を教えればいいのか」を、SUICSが自社の仕事で試した実感から3つの条件にまとめて渡す。AIに詰まってきた個人事業主・店舗オーナーが、明日の朝いちばんに録画すべき1作業を選べるようにする。
「指示を書く」から「背中を見せる」へ、教え方が丸ごと変わった
これまでAIに仕事を任せるには、やってほしいことを言葉で書く必要があった。いわゆるプロンプトだ。ところが非エンジニアがAIで最初につまずくのは、まさにここにある。頭では手順が分かっているのに、それを他人に伝わる文章へ翻訳しようとすると急に手が止まる。「毎週やっているアレ」を言語化する作業そのものが、地味に重い。
録画で教える方式は、その翻訳工程を丸ごと飛ばす。画面録画を回して、いつもの作業を実際にやって見せ、要所を声で説明する。それだけでClaudeが一連の流れを手順として記憶し、次回から同じ作業を再現できるようになる。指示文を組み立てる能力ではなく、いつもの仕事を普通にこなせる能力さえあれば、AIに教えられる。これは、AI活用の入口の高さがぐっと下がったということだ。
相性がいいのは、頭では分かっているのに言葉にしづらい定型作業だ。請求書作成、予約の確認返信、SNS投稿の下書き、顧客情報の台帳への転記——どれも「やれと言われればできる」のに「文章で説明して」と言われると詰まる作業ほど、録画で見せる価値が大きい。言語化のハードルが高い作業ほど、この機能の恩恵を強く受ける。
静かに終わりかけている。
これからは、いつもの仕事を見せられる人が使う。
最初に教える1作業は、この3条件で選ぶ
録画で教えられると分かっても、多くの人が次の一歩で止まる。「で、結局どの作業から録画すればいいのか」だ。ここを勘で選ぶと、たまにしか発生しない作業や、その場の判断が多すぎる作業を選んでしまい、覚えさせた手間のわりに使う場面が来ない。最初の1作業は、次の3条件で選ぶと外さない。
3条件のうち2つ以上に当てはまる作業が、最初に録画すべき1本だ。頻度が高く、言葉にしづらく、順番が大事——この3つがそろう作業の代表格が「月末の請求書作成」であり、私が最初に録画したのがまさにそれだった。逆に、年1回・その場判断だらけ・毎回正解が変わる作業から手をつけると、覚えさせた労力が報われにくい。
SUICSは自社の仕事で先に試している
この機能について、SUICSは外から眺めて解説しているわけではない。SUICS自体が、Claudeのデスクトップ業務モードで会社そのものを運営している当事者だ。請求書の作成、このブログの日々の更新、クライアントのManyChat設定——実際の業務のなかで、録画して教える方式を先に自分たちの手で回している。だからこそ、代行だけを請け負う競合には出せない一次情報として、何がうまくいき、どこに注意がいるかを具体的に語れる。
試してみて分かったのは、最初の録画は短くて回数の多い作業から始めるのが正解だということ。いきなり30分の大作業を録画すると、途中の判断が多すぎて手順がぶれる。5分で終わる定型作業を一つ、丁寧に見せて覚えさせ、それが安定して再現されるのを確認してから次へ進む。この「小さく見せて、確かめて、増やす」順番が、非エンジニアがつまずかない進め方だ。
たとえばこのブログの更新も、毎朝ほぼ同じ流れで回している。ニュースを拾い、切り口を決め、決まった書式で本文とサムネを整え、所定の場所に保存する——工程の数は多いが、順番はいつも同じだ。こういう「工程は多いが順番は固定」の仕事こそ、録画で見せて手順を固定する相性がいい。ManyChatの初期設定も同じで、アカウントを繋ぎ、あいさつメッセージを組み、コメントから自動DMへ流す導線を敷く一連の型を、毎回ゼロから思い出すのではなく、覚えさせた手順の上で微調整する形に変わってきている。手が覚えている型を、AIにも持たせておく感覚に近い。
注意点も正直に書いておく。録画で教えた手順は、見せた通りにしか動かない。だから、その日の相手や状況で正解が変わる仕事——たとえば込み入ったクレーム対応や、新しい企画の方向づけ——まで丸ごと任せようとすると外れる。任せるのは「毎回同じでいい作業」、握り続けるのは「その都度考える作業」。この線引きだけは、人が引く必要がある。AI活用で失敗する会社の共通点は、この線引きを飛ばして一気にやろうとするところにある。過去の失敗パターンは 「AI導入で失敗する中小企業の3つの共通点」 の記事にまとめてある。
「自社の作業をAIに覚えさせたい」と思ったら
録画で教える方式は入口を下げてくれるが、それでも「どの作業から手をつけ、どこまでAIに任せ、どこを人が握るか」の設計は、事業ごとに答えが変わる。SUICSのAI/DX導入支援では、まず御社の業務を棚卸しして、録画で覚えさせるべき定型作業と、人が握り続けるべき判断作業を仕分けするところから始める。そのうえで、実際に録画して手順を固定し、日々の運用に定着するまで並走する。ツールを渡して終わり、ではなく、御社の現場で回り続ける状態までを設計する。
まずは自分ひとりで小さく試したい人は、月数千円で組める自分専用のAI秘書づくりから入るのが早い。5機能の作り方は 「月2000円で雇うAI秘書の5機能と作り方」、外注ゼロで自動化の仕組みを内製する手順は 「個人事業主が30分でAIエージェントを内製する3ステップ」 にまとめてある。明日の朝、まずは1作業。カレンダーを開いて、いちばん頻度の高い定型作業に印をつけるところから始めてほしい。